弊所では毎年6月に社員旅行を実施している。参加は自由である。視察先は皆の希望をもとに絞り込んでいくのだが、まちづくりコンサルタントだけに、まちづくりに参考となる地域を組み込むことが多い。今年は直島・高松・金比羅山(以上、香川県)・鞆の浦(広島県福山市)の4地域を訪れた。
@直島(なおしま)
これについてはすでに「コンテンポラリーアートによるまちづくり/『直島』香川県」を2006年11月10日のメルマガで堀内研自が記述している。本村(ほんむら)の家プロジェクトも当時の4箇所から7箇所へと3箇所が増えている。予約のいる一つの家プロジェクト(きんざ)を除いて、すべてを見て回ったが、最も感動したのが南寺(みなみでら)である。寺のあった場所に安藤忠雄が施設を建設し、ジェームスタレルが作品を展示するものである。入場時間が来るまで屋外の入口で待ち、時間になると施設内に入るのだが、明るいところから真っ暗な室内に入るためまったく何も見えない。よって手探りで壁を伝い、所定の席までたどり着く。そしてただじっと前を見るだけなのだが、5分経過、8分経過………、何も見えない!10分経過、何か白いスクリーンのようなものが掛っている。15分経過、ようやく白黒がはっきりと見えてくる。そしてスクリーンのようなものに近づいていくと、それは平面でなく黒壁をくり抜いた白い空間がそこにあり、その内側の上下から薄い自然光が入ってくる、ただそれだけなのだが、光が見えたときとその仕掛けが分かったときの二度感動する。「きんざ」は予約していないので、外から建物だけでも見ようと、敷地内に入っていったら、予約なしではダメだとお婆さんに追い返された。ひょっとしてお婆さんが作品なのかもしれない(もちろん冗談です)。
家プロジェクトと同時に注目したのは屋号プロジェクトである。「屋号は直島の古い家のもつ『ニックネーム』で、今も直島の人々の日常カイワに出てくる『ひびき』です」と役場が出している屋号マップに書かれている。その屋号を金属の板を曲げ、文字を切り抜いて、表札風にかけているのだが、本村に89の屋号表札がかかっている。一方で家プロジェクトのようなコンテンポラリーアートを、他方で屋号プロジェクトのようなルーツアート(勝手に命名)があり、その組み合わせの妙が素晴らしい。
A高松
高松(人口41万人)は香川県の県庁所在地。最近に注目を浴びているのは中心部にある丸亀町商店街(延長470m)の再開発事業である。注目を浴びているが故に、多くの雑誌・書籍等で解説されているので詳細は省くが、延長470mをA〜Gの7つの街区に分け、統一デザインコードをもとに、AとG街区は再開発事業を、それ以外は高規模連鎖型の共同建替事業を、順次展開していくものであり、平成18年12月にA街区(壱番館)の再開発事業が竣工した。アーケードが撤去され、建物が新しくなり、ブランドショップも入り、というだけなら面白くない。目に見えないが、土地所有者から土地を借り、再開発によって建物を建替え、それをまちづくり会社が共同で管理運営する手法は参考になるであろうし、ガレリアドームの自由度の高い使い方は集客力を高めているものと推察される。隣接して三越があるが、それと壱番館に挟まれたエリアには居酒屋や飲食店、ハイセンスな和風宝飾店などが立地し、一様でなく多様さが我々の感性を刺激する。
平成8年の丸亀町商店街通行量は10年後には半分近くまで減少し、地価はバブル前の半分以下、バブル期の1/10となっている。果たして、この再開発事業、さらに進められる小規模連鎖型事業により、果たしてどのように活性化していくのか、全国が注視している。
B琴平温泉と金刀比羅宮
今から10年前に同じ社員旅行で訪問した。その際に本宮で幸せの黄色いお守りを買って帰ったが、ずうっと名刺入れに挟んでおいたので、今回の旅で返却しようと試みた。スタート地点から本宮の神札授与所まで785段の石段があり、さほど10年前と変わらず、まずまずの疲労感で登頂できた。さらにそこから奥へ583段(合計すると1,368段)を登っていくと、奥社として厳魂神社があり、さすがにそこまで登っていくと汗だくで疲れてしまった。幸せの黄色いお守りは本宮でしか売られておらず800円、奥社でも異なるお守りを売っていたが500円であった。なぜ奥社に黄色いお守りがないのかを尋ねたところ、祭っている神様が違うからだという。ナルホド。苦労してさらに登ったほうでのお守りが安いのは解せないが。さて、10年前の黄色いお守りを返却する件だが、肝心な時に持参し忘れた。どうしたらよいかと社務所で尋ねると、近くの金比羅神社に返せばいいという。しかし、さらに10年後に本宮に返却するとしよう。20年経過の黄土色のお守りをもって、再び石段を登ろう。
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