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 まちづくりにおける住宅政策の重要性を考える

石田富男

 近年、住宅施策が大きな課題としてとりあげられるようになってきた。スペーシアにおいても、住宅に関わる業務に多く関わっており、調査・計画業務の柱の1つとなっている。

 ここでは、これまでの業務の経験を踏まえ、まちづくりにおける住宅施策の重要性について考えてみたい。

<見出し>

高齢社会を支える柱としての住宅

人口定住策としての住宅

少子化対策としての住宅

防災対策としての住宅

地域活性化対策としての住宅

「環境」「住民参加」と住宅

魅力ある住まいが未来を切り開く

<本文>

高齢社会を支える柱としての住宅

 高齢社会を向かえるにあたり、今の段階から高齢社会に備えた体制づくりの重要性が高まっている。ゴールドプランの取り組みもその1つであるが、良好な社会ストックの形成という点で、住宅が大きな意味をもつ。

 高齢者にとっての住宅は、生活の大半を過ごす場であるにもかかわらず、非常に貧困な状況におかれており、住戸内の事故が多数発生している。また、住宅の貧困さが寝たきり老人を生み出しているという指摘もある。高齢者が生き生きとして生活できる住宅を提供することは、福祉コストをさげることにもつながる。高齢社会を支える柱として住宅を位置づけることが重要になってきたといえる。

 また、公営住宅における高齢者の増加が住宅施策と福祉施策との連携を必要としている。公営住宅が老朽化し、建替が必要となったが、そに多く残されていた高齢者への対応が大きな課題であった。高齢者の反対で建替が進まないということが起こる中で、シルバーハウジングを供給することによって建替を推進することもできるようになった。公営住宅施策を展開する上でも高齢者対策が重要であったといえる。

人口定住策としての住宅

 バブル経済による地価高騰などを背景に、大都市の中心部から人口が急減する中で、特に東京都心区では住宅対策が自治体の存亡をかけた課題として重視されるようになり、住宅付置義務など都市計画と連携した様々な取り組みが展開された。他地域でも都心部における人口減少は顕著となり、都心活性化の方策として都心居住が重要な課題としてとりあげられるようになった。

 また、人口減少時代を迎えるにあたって、人口定住が重要な課題となっている。地方分権を推進する上で人口の確保が必要であることは言うまでもないが、地方財政を支えるという点でも大きな意味を持つ。特に、大きな産業をもたない都市では住民税が最も大きな財源となっており、それを支える人口の確保が重要となる。さらに、より多くの税金を払ってくれる人の確保が重要となり、その意味で良好な住宅の供給が重視されているといえる。

少子化対策としての住宅

 人口減少の大きな要因が少子化である中で、いかに子育てしやすい環境を作りだし、子供を増やしていくのかも大きな課題となっている。

 少子化の要因は女性の社会進出や晩婚化など様々であるが、住宅の狭さもその一因としてあげられている。また、エンゼルプランでは子育てのしやすい環境づくりとして、保育所を併設した住宅などにも注目が集まっている。

 先の人口定住とともにこれからの地域を支える人口の確保という意味で住宅が重要になってきたといえる。

防災対策としての住宅

 阪神・淡路大震災では老朽した木造密集地区において大きな被害が発生し、密集市街地の改善の必要性を教訓として残した。密集市街地整備においては、公共施設整備とともに、老朽した住宅の建替が重要になっているが、これまでの取り組みでは遅々として進んでいない状況にあった。これは、住宅の建替が個人の力量にゆだねられ、住宅政策として建替を推進するまでに至っていなかったという点があげられよう。

 密集市街地整備法の制定により密集市街地整備の取り組みが体系化され、都市計画と住宅施策の連携が必要とされている。良好な住宅ストックの形成がまちの安全性確保の点からも重要となってきているといえる。

地域活性化対策としての住宅

 地域に根ざした住まい・まちづくりを進める制度として創設されたHOPE計画は、地域の活性化において重要な役割を果たした。産業施策との連携により、地域の産業振興が図られ、地域の活力を取り戻したり、魅力ある景観形成により、地域のイメージアップが図られたところも多い。過疎などの問題を抱える地域では、地域活性化方策の1つとして住宅施策が重要になってきているといえる。

」「環境」「住民参加と住宅

 環境問題は様々な分野でとりくまれているが、住宅の分野においても環境共生住宅などに注目が集まっている。愛知県の住宅マスタープランでは「環境と共生した快適な住まいとまちづくり」がテーマとしてとりあげられている。身近な住まいからのとりくみは、まちづくりにおいて環境問題を考える第一歩となろう。

 また、住民参加によるまちづくりを進める上でも、生活に密着した住まいづくりの取り組みが重要である。従来から、住み手参加による住まいづくりとして、いくつかのコーポラティブ住宅がみられたが、バブルによる地価高騰によって、この地域においても供給が困難な状況があった。それが、春日井市における戸建形式によるコーポラティブ住宅の成功(木附の里)により、この地域の特色を生かした新しい取り組みとして注目されている。住み手参加による住まいづくりをめざす新たな取り組み(安住の会)も展開されている。

 環境や住民参加といったまちづくりの新しいテーマを展開する上でも住宅施策が重要になってきているといえる。

 魅力ある住まいが未来を切り開く

 このように住宅施策が様々な分野で重要な意味を持ってきており、様々な施策との連携の重要性がクローズアップされてきている。まさに、住宅を中心とした総合的な取り組みが必要とされているといってよい。

 名古屋都市圏は、大都市の利便性と豊かな自然環境を有するという条件を有しているが、その条件をいかして、魅力ある住宅・住宅地を形成しているところはわずかしかない。住宅を核としたいち早い取り組みが求められているといえよう。 

人々に地域に対する愛着が生まれ、定住を保障する住宅が提供できれば、積極的に住み続けたいと考える人々が増大する。地域に愛着を持ち、積極的に住んでいる人がどれだけいるかが、これからの時代の指標となるのではないだろうか。魅力ある住まいが地域の未来を切り開くことを信じている。 


コラム 愛知県下の市町村の将来人口は?

 厚生省人口問題研究所の都道府県別将来推計人口(97年5月推計)によると、愛知県の人口も2010年頃をピークに減少し、2025年には1995年人口を下回るという。

市区町村の将来推計人口については、これまで各市区町村で独自に推計値が出されていたが、このたび(財)統計情報研究開発センターによって全国の市区町村の将来人口がだされた。1990年と1995年における国勢調査の男女・年齢5歳階級別人口のみを用いて、コーホート変化率法によって推計したものであるという限界はあるが、全国を一律の方法によって試算してみたものとして参考となる。

 愛知県下の市町村の結果を1995年と2025年の比較でみると

 ○88市町村のうち57市町村で人口減少。三河山間部の町村は3割から5割も減少

 ○31市のうち14市で人口減少。名古屋市は173万人と2割も減少

 ○増加率のトップは藤岡町で6倍の11万人に

 ○三好町も14万人と2.6倍に増加。愛知県で10番目の都市に

 ○日進市は18万人と県下25番目から8番目に躍進

中には「ほんと?」といいたくなるような推計値もあるが、話しの種にみてみるのもおもしろい。