現在の位置:TOP>RUBADUB>RUBADUB1998(創刊号) WWW を検索 スペーシアサイト を検索

 

対談:マイスタイル・ライフスタイル 
       /ジョン・ギャスライト&井沢知旦

夢が最初の目標、結果として環境にやさしくなった

井沢(以下I):まず、どうしてツリーハウスを建てようと思ったんですか?

ジョン・G(以下J):OK、まだ子供の時、アメリカから、カナダに引っ越して、喋り方の違いや髪型の違いからいじめにあった。毎日つらくて、学校から走って帰ってたら、おじいちゃんが木登りに誘ってくれた。そして「見てごらん、木の上から見ると、学校もいじめっ子も小さく見えるよ、こわくないよ。」と励ましてくれた。そして近所を回って、子供を集めて、ツリーハウスを、つくらせてくれた。いじめっ子も一緒にね。みんなでツリーハウスをつくることで助け合い、仲良くなった。自分たちでこれだけの事が出来るという自信を持てた。そのときに大人になったら、本当に住めるようなツリーハウスをつくろうと思った。

 井沢さんの家も、木で出来てるんですね。和風の雰囲気もあってすごく良い。なぜ、こういう家をつくろうと思ったんですか?

:日本の風土には木が合うと思ったからです。湿度の高い日本では呼吸する素材の家が良い。それにコンクリートで出来たマンションに住んでいたから、風の通る木の家に住みたくなった。昔の日本の家は夏を基本につくられていた。それを踏襲しつつ冬の寒さ対策にOMソーラーで床暖房を入れています。日が沈んでも日中に暖まった空気が床を暖めてくれる。ただ遅くまで仕事をして帰るとさすがに冷えていて、夜はガスでもう一度空気を暖めるんですが、これに意外に経費がいるんです。



:僕も床暖房を考えてるけど天然ガスを使いたい。天然ガスは燃えると水になるから安心です。でも、やはりお金がかかるらしいよ。



:本当に環境にやさしく、節約して暮らそうと思ったら、日が落ちると同時に寝てしまえと言うことですね。



:家族の反応はどうでしたか?僕の場合は「おまえは、猿を育てる気か」「人類の文化発達と逆行している」と、反対されました。(笑)



:反対はされませんでしたよ。唯、床面積もそれまでより大きくなって夜にガスによる床暖房をとると暖房費用が多くなることに閉口しています。夏の給湯分を考えると相殺されてそれほどでもないのですが、月々の請求で見ますから。ジョンさんの家づくりには他にどんなご苦労が?



:樽を使おうと思い立ってから、いろんな所へ声をかけて、樽を譲ってもらったんだけど、それを使えるようにするまでが大変だった。まず臭いがすごいでしょう、臭いをとる強い薬はあるけれど、森を汚すから使いたくなかった。だから真水でどんどん流して、最後は苛性ソーダを使った。使った苛性ソーダもPH値が下がるまで、お茶の葉などを入れて薄めました。

 樽の準備が出来て、デッキを木の間につくって、その上に載せました。カナダではステンレスの釘を使って、ツリーハウスをつくるし、日本ではバンドで木の幹に固定するけれど、そのどちらもやりたくなかった。木の成長を妨げずいつでも撤去して森を元の姿に戻せるようにしたかった。

:環境共生を、すごく考えてるんですね。



:僕のツリーハウスのメインの目標は環境共生ではなく、子供達の夢を育てることだった。その中に自然を大切にすることが含まれてきた。



:4月利用開始を目標にしているということだけど、森に泊まったことはありますか?

:何度かありますよ。一番最初はデッキをつくる前。台風の日に木がどれくらい動くかを見ようと思って、木に自分の体をベルトで縛り付けて、ずっと見てた。それでどんなデッキをつくれば木の邪魔をしないかよく分かった。でも、夜になって雨が降り出し、滑って木から下りられなくなった。それで一晩中木につかまってた。それが最初に泊まった時です。



:それはすごい。実際に泊まってみたりして樽はどうですか?



:樽はすごく丈夫なんです。誤って3mの高さから落としたことがあった。何回も弾んだけど全く壊れなかった。床になる底が12pもあるから、暖かいしね。ただ虫が出ます。大工さんに相談したら、木を使えば虫が出るのはしょうがないと。ただ、虫というのは、悪いものばかりじゃない。良い虫もいる。現代の家でダニがいっぱい出るのは、ダニしか入れない家を造るからだそうです。他の虫もバランス良く来ればダニは増えない。ツリーハウスでは良い虫がいっぱい来るようにしようと思う。奥さんはまだちょっといやがってるけどね。

井沢さんが家をつくる上で、他に苦労したことは?

:いろいろありますが、例えば母屋と離れをつなぐ通路に屋根を付けたかったんだけど、建ぺい率に違反すると言って、だめだった。結果としては風情が出て良かったんだけれども。

ツリーハウスはまちづくりへのヒント

:井沢さんも法律では苦労したんですね。僕も、一度テレビのニュースで紹介された後、「許可はどうなっているのか」と、たくさん電話がかかってきて、もうこれで、僕の夢は終わったと思った。でも瀬戸市の職員の人やたくさんの友人達が前向きに考えてくれて頑張って、クリアしました。結果として、一〇〇%、「僕の家」にはならなかったけど、ツリーハウスの管理人をやることになりました。

 資金を借りたり、大工さんを頼むことも最初はみんな、取り合ってくれなかった。話を丁寧に聞いてくれてもなかなか、本気にしてくれなかった。声をかけてくれる他の県や、カナダでツリーハウスをつくれば簡単だけど、僕はどうしても自分の地元であるここ、東海地方で夢を実現したかった。それで頑張っていたら、だんだん助けてくれる人が増えました。それで愛知県、東海3県に足りないのは人間のパワーとか材料ではなくて、アイディアだと思いました。

:なるほど、人材も材料もたくさんあるんですね。そこにジョンさんの夢が加わった。

:そう、例えば樽にしても各地から頂いてます。それから照明の笠とバス・トイレは瀬戸ものでつくろうと思っている。せっかく瀬戸にいるんだから。瀬戸ものはリサイクルできるしね。

:この地域はいろいろな地場産業で生活に必要なものが全部そろうんですよね。でもモノをつくるだけでは地域のイメージはあまり良くならない。というのは、住む人がその製品を上手く生活に、まちに活かしてないと思うんです。地場産業で地域を盛り上げてほしい。ジョンさんの今回の試みはそういう意味でも素晴らしい。これからのまちづくりへの非常に重要なヒントになるのではないか。

家づくりも、まちづくりも花のように次の世代に夢の種を残したい

:夢が叶うというのは川のようなもので、川が低いところへ流れていくように止まることがない。何かにぶつかったら、方向を少し変えたらよい。最初からまっすぐな川をつくるのはお金がかかるし大変。計画のたてすぎはつまらないよね。井沢さんはまちづくりの計画をするでしょう?成功するかしないかの違いは何ですか?

:やはり地域の持つマンパワーでしょうね。人の頭に差などないわけで、どうやってそのパワーを引き出すかが大事でしょう。住民のパワー、行政のパワー。あわせれば大きな力が発揮できます、ジョンさんはその辺を夢で引き出したんですよね。



:大人に夢がなければ、子供も夢を持てないと思った。僕が子供の時カナダには移住してきた人がたくさんいて、みんな夢を抱いていた中にはカナダに移民することが夢だった人もいて、どうやってその夢を叶えたかを僕たち子供に話してくれた。だから夢は叶うものだと思って育った。学校にも1年休学して家族で旅に出る子や、ボーイスカウトで活躍する子勉強以外の分野でほめられている子がいっぱいいた。今の日本には、それがない。だから、ツリーハウスこそそういう大切な場になれば良いと、思っています。まずは地域の子供達に来てもらって、チームを作ってツリーハウスづくりに挑戦してもらおうと思っています。家も、まちも夢を育ててくれるようなものでなくてはだめだと思う。きれいなものをつくるのは簡単。できてしまえばそれで終わり。そうではなくて花が咲いて種を残すように次の世代が自分の夢を育てていく。それが大事だと思います。

:全くその通りだと思います。これは一度見学に行かなくては、そのときはお願いしますね。

:じゃあ、是非訪問し合いましょう。スコットランドのお正月の習慣で新築の家に近所の人が集まるというのがあるんだけど、その家の人はごちそうを出さなくちゃならないし、快適な家だとみんないつまでも帰らないから大変。井沢さんの家は、特に快適そうだから大変かも!?

 

まちに住む 

 名古屋市緑区の住宅地に、平成7年6月に完成。木造2階建てで、名古屋の蒸し暑い風土にあった住み易さを第一に考えた結果、木と漆喰といった自然素材をふんだんに使った家になった。太陽熱を利用したOMソーラーを取り付け、南北に風が通るように窓をたくさん設けた。結果冬暖かく、夏は風通し良い室内はエアコンが必要ないほどで、省エネ住宅の実現となった。

森に住む  

 ジョン・ギャスライトさんの念願のツリーハウスは、愛知県瀬戸市にあります。昨年2月からこつこつと、心を込めてつくり上げられ、今年完成予定です。直径3mの大きな樽に、かわいらしい緑の窓と赤い屋根をつけて、子供だけでなく大人まで幸せになりそうなたたずまいです。

 ジョンさんの夢に共感した人、友達の友達など、協力者は100人を越します。休みの日には森に人が集まり、皆、自分の出来る範囲でツリーハウスづくりに加わるそうです。現在使用しているのは大小10個の樽と、170本の古い電柱そして廃材です。

 床となるデッキのあちらこちらに、穴が空き、木々がすくすくと、育っています。

 子供の遊び場となる部屋の窓ガラスは割れてしまってもすぐ取り替えられるように着脱可能。「子供はものを壊して当たり前、それよりも楽しく過ごして欲しい。」とジョンさん。