海外視察報告
オープンカフェ−公共空間の有効活用による都心の活性化にむけて
井沢 知旦
<見出>
様々なシーンを生み出すオープンカフェ
日本でのオープンカフェへの期待
欧米のオープンカフェを支える背景
オープンカフェのための条例とルールの共通項
日本で実現していくために
<本文>
様々なシーンを生み出すオープンカフェ
欧米の都心には必ずと言ってよいほど、歩道に広場にオープンカフェが溢れている。都市のにぎわいを構成する独自の景観を生み、また人々の生活シーンの舞台装置としても大きな役割を果たしている。ラブストーリーの出会いや別れ、語らいの場として、アクション映画ではカーチェイスの破壊の対象として常に出てくる。
三百年以上の歴史をもつ欧州のカフェ(コーヒーハウス)は独自の文化を花咲かせてきた。ウィーンやパリ、ロンドンなどでは、文化・思想を生み出す社会的装置として機能していたと言える。その歴史の延長上に今日があるわけだが、歩道や公園の一部をオープンカフェとして積極的に利用させている。
日本でのオープンカフェへの期待
翻って、日本ではオープンカフェにどのような役割が期待できるのであろうか。
第一に商業者的視点である。日本の人口減少が予想されて、今後ますます都市間競争が激しくなるなかで、中小都市の中心部(中心商店街などの特定の地区)の衰退に歯止めをかけ、活性化していくための魅力づけ装置として期待される。
第二に利用者的視点である。これから急速に進む高齢社会にあって、高齢者にふさわしい憩いの場を提供していく社会的装置として期待される。高齢者にとって荷物を持ちながら長時間歩くことは苦痛である。また、ストックされた公共空間の有効活用を図ることにほかならない。
第三に行政的視点である。都市の財政構造の変化を踏まえて、これから急増していく公共施設の維持管理費を捻出する手段として期待できる。
欧米の公共空間の市民利用は、利用させることを前提に、問題が起こらぬよう条例やルールが設定されているが、日本では、利用させないことを前提に、例外的に利用させるための条例やルールが設定されている。そこには非常に大きな思想の相違が横たわっている。
そこで、欧米では公共空間を利用させることを前提に、どのような条例やルールを持っているのかの整理を行おう。
欧米のオープンカフェを支える背景
欧州2都市(パリ・コペンハーゲン)、米国西海岸3都市(サンフランシスコ・ポートランド・シアトル)について整理した。(オープンカフェとは、パリではカフェテラス、他都市ではサイドウォークカフェと呼ばれているものの総称)。
オープンカフェの歴史は国によって深浅の差がある。今回の調査対象5都市の中ではパリが最も古い。約三百年のカフェ(コーヒーハウス)の歴史と約百年のオープンカフェの歴史がある。狭い店のため屋外で販売する商習慣や屋外を楽しむ市民のライフスタイルなどが、オープンカフェ等を産み出してきた。オープンカフェはパリではすっかり定着し、行政も歩道をはじめとする公共空間を一定のルールのもとで積極的に利用させており、そこからあがる利用料を当初より財源に組み込んでいるしたたかさがある。市税収の1割弱を占めるまでになっている。
それに対し、同じ欧州でも北欧に位置するコペンハーゲンでは、オープンカフェの歴史は浅く、高々20年程度の歴史を持つに過ぎない。都心部に溢れた自動車を閉め出して、快適な都心空間を創出するために、主要通や広場をモール化したことと、多くの市民が南欧へ観光旅行する中で、フランスやイタリアなどのオープンカフェでコーヒーを飲み、ワインを食して過ごすスタイルを経験することを下地として、多くの市民の支持を得て、厳寒のコペンハーゲンでも夏場の3ヶ月間はオープンカフェが定着していった。
米国西海岸の諸都市でもオープンカフェの歴史は20〜30年と古くはない。米国の諸都市は、常に都市間の競争だけでなく、都心と郊外の競争にも晒されている。都心の荒廃は、商業店舗や事業所、住宅の立地を左右し、自治体の財産税等の収入を低下させる。ひいては市民への行政サービス水準を落とすことになる。どの都市も最近では観光に力を入れてきているので、いかに安全で快適なストリートライフを提供できるのかが、今まで以上に大きな関心事となっている。また、市民の自治意識は高く、積極的に住民発議による提案を行って、住民投票で課税率の上限やプロジェクトの実施を決定したりしている。よって、そのような市民にとって公共空間は市民のものであり、市民のために歩道を利用することは何ら問題がない。
オープンカフェのための条例とルールの共通項
欧米諸都市でほぼ共通する条例やルールを整理すると、次のような条件イメージとなる。
@Am以上の歩道で3分の1以下かつ植樹帯・バス停、自転車通行帯等を除いてBm以上の歩行者通行帯が確保できる歩道で、その敷地の幅の範囲であること
(パリではA=2.2m、B=0.8m、ポートランドではA=12フィート(東西道路)15フィート(南北道路)B=6フィート)
A1階部分に飲食店舗を経営するものがオープンカフェを営業すること
Bその建物(および周辺)のオーナーと他のテナント(および周辺)の同意を得ること(オーナーとテナントの意見が一致しない場合はオーナーの意見を優先)
Cオープンカフェ経営者は営業時間が終了次第、テーブル・椅子等を店舗内に収納するとともに、いつも清潔にし、清掃すること
D営業にあたっては利用者のための傷害保険に加入すること
E歩道の持つ商業的価値(例:路線評価額)と対応した利用料を徴収すること
F景観向上を図る場所については、テーブル・椅子・パラソルなどの色や素材を限定することができること
G使用許可の権限は行政が有し、違反または管理不良の場合は許可の取り下げまたは強制撤去を行える権限を有すること(歩道工事の場合は、その間の営業は行わないこと)
日本で実現していくために
歴史的に見れば、日本には茶屋文化や縁台文化があった。しかし、近代に入り、とりわけ自動車社会になってから、「公共」と「民間」の空間区分が厳密に引かれた。「公」は単一機能的な利用以外は利用させず(省庁の縦割りが入り込む)、「民」は自由勝手に利用することになる。ちょうどその際(きわ)となる「共」の考え方が導入されなかった。
現状では、利用にあたり道路交通法に基づく使用許可や、道路法に基づく占用許可が必要であるが、そもそもオープンカフェは限定列挙された許可対象施設に含まれていないので、討議の俎上にものぼらない。許可基準の見直しが前提となる。
昨年10月に名古屋で世界都市景観会議97が開催されたが、その関連イベントとして久屋大通で6ヶ所のオープンカフェ(ただし歩道上でなく各店舗の敷地内)を4日間出店した。多少見られることの気恥ずかしさはあるものの市民の評価や将来展開のいずれの支持も9割を超える。
公共空間の利用のあり方を再検討する時期にきているのではないだろうか。オープンカフェはその一例に過ぎないが、都市の新しい社会的装置になっていくことが期待される。
(本文は名古屋世界都市景観会議97へ、スペーシアがとりまとめ提出した参考資料をもとに、要約したものである。)