スペーシア・メールマガジン(隔週発行予定) □[第393号]2015/8/6□ □配信数 733□
スペーシア・メールマガジンの第393号をお送りします。
名古屋からの情報発信とともにまちづくりのネットワーク形成をめざしています。
今回、はじめて送信させていただいた方もよろしくお願いいたします。
<内容・目次>
◆住まい・まちづくりコラム◆
・コンパクトシティへの一考察
◆図書紹介◆
・ザハ・ハディッドは語る/ザハ・ハディッド、ハンス・ウルリッヒ・オブリスト著
◆読者の声◆
◆スペーシアのこの頃◆
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◆住まい・まちづくりコラム◆
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○コンパクトシティへの一考察○
本日(2015.8.4)、ドイツのエアランゲン市在住のジャーナリスト高松平藏氏による「ドイツの
地方都市は何故元気なのか−コンパクトシティのクオリティ」と題する講演会があった。
高松氏とは2014年2月にエアランゲン市を訪問した際に都市事情をヒアリングした時から
付き合いがあり、同じ関西人ということもあって、すぐ打ち解け、今日に至っている。
この講演では10.6万人都市エアランゲン市が元祖コンパクトシティとして捉えたうえで、
その在り様を考えようとするものであった。確かに中世のヨーロッパ諸都市は外敵防御の
ための城塞都市を基本とするので城壁内で生活が完結するよう機能(教会・役所・市が
開かれる広場・文化施設・商業施設など)が集約されている。ちなみに「進撃の巨人」の
モデル都市はドイツの円形城塞都市ネルトリンゲンだと言われている(漫画では巨人からの
攻撃を防ぐため、城壁は実際の都市より高すぎるのだが)。
日本でのコンパクトシティは空間的集約性が強調される。歩ける範囲に生活諸機能が
集約されていて、都市(拠点)間は公共交通で串刺されてネットワークされているイメージ
である。交通の便や店舗の多様性、事業所(働く場所)の集積といった経済的価値の側面、
歩行者ゾーンや良好な景観や緑化といった可視化できる社会的価値の側面の強調である。
これらはコンパクトシティの一つの側面に過ぎない。
もう一つ重要な側面は可視化しづらい社会的価値である。自分たちの街を自分たちで
育て上げる自治力であり、それを支えるNPOの活動が代表例であろう。エアランゲン市では
650のNPOが活動している。名古屋市は228万人で1000弱の団体であることを勘案すれば、
エアランゲンは非常に多いことがわかる。NPOに限らず教会の役割も同様に大きく、
高松氏の言葉によればNPOや教会の双方とも「信頼の網目」と呼んでいる。自治力
だけでなく、都市のアイデンティティとなりうる文化力も欠けてはならない社会的価値である。
アーカイブ、ミュージアム、出版はその代表例であるし、カフェテラスの設えによる
コミュニケーションの活性化という公共空間の活用のあり方も社会的価値の一つであろうか。
シビックプライドやセンス・オブ・プレースといった言葉を耳にすることがあるが、当事者意識や
まちへの愛着の価値とでも呼ぶべきキーワードである。それを支えるのが自治力であり
文化力なのであろう。よってコンパクトシティと言った時には、空間や経済(機能)の集約性
だけでなく、自治や文化をも集約できることが重要である。
(井澤知旦)
→ホームページに写真を掲載しています。
http://www.spacia.co.jp/Topic/column/compactcity/
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◆図書紹介◆ −まちづくりに参考になるものを紹介−
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○ザハ・ハディッドは語る/ザハ・ハディッド、ハンス・ウルリッヒ・オブリスト著○
筑摩書房/2010年9月22日発行
すでに白紙となった新国立競技場の設計者に選ばれていたザハ・ハディッド氏とは
どんな人なのかが気になり、本書を手にとった。
ザハ氏は、イラク出身で現在はロンドンに数百人規模の設計事務所を開き、世界中から
オファーが絶えない女流建築家である。
80年代は「アンビルドの女王」と呼ばれ、実際の建築作品がほとんど無いにも関わらず、
都市や空間の可能性を追求した数多くのドローイングが、その前衛性において注目されていた。
前衛的すぎる彼女の建築案は、コンピューターや建設技術の進歩により90年代から
実際に建設されるようになる。2000年以降は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで、世界各国で
斬新な建築を作り続ける巨匠となり、建築界のノーベル賞と言われるプリスカー賞を
女性で初めて受賞している。デザインの特徴は、初期の作品では、分解された建築が
空中に飛散したようなデザインが印象的であったが、2000年以降は三次曲面を多用した
うねるような形体や、海綿状のような有機的な構造体など、他者には真似のできないような
個性的な作品が多い。新国立もこうした最近のザハ氏ならではデザイン性を感じる建物だった。
本書に書かれた彼女の一面は、まさに天才肌である。「無視され侮辱されていた「アンビルドの
女王」時代でも、いつかはそうした状況から脱すことが分かっていた」、と言いきり、「現在の
賞賛も自分の人生に影響を与えるほどまじめにとらえていない」とあっさり答えている。
また、「自分は集中状態にあると、混乱することなく物ごとがクリアーに見える。」と言っており、
超人的な集中力を自覚している。本書を読んでも、彼女の建築を理論的に理解することは
難しいが、天才的なインスピレーションやデザインセンスは感じ取れる。
さて、新国立競技場のザハ案は完成することは無いようであるが、本書を読んで、
改めて天才ザハ氏のコンペ時の案(後から出てきた減額案はいただけない)を見てみると、
間違い無く天才が醸す神秘的な魅力に満ちた建築だと言えよう。
新国立の審査員は「日本が世界に発信する力」という観点から、デザインの強いメッセージ性と
日本の技術を世界に示すことができる最も優れた作品として、ザハ案を最優秀に選定した。
ザハ案は、審査の評価の通り、デザイン面ではその前衛性は抜きん出ており、完成すれば、
まさに世界に誇れる建築となったであろう。また、技術面でも審査委員長の安藤忠雄氏が
「ザハ案は相当な技術力が必要だが、これを完成させることで、日本の建築技術の優秀さを
世界にアピールできる」と語ったほど、チャレンジングな建築であったであろう。
建設費が当初1300億円の予定が2500億円になったというのは問題であるが、報道は、
それが最優秀に選ばれた評価にはまったく触れず、2500億円という工事費に対する批判に
集中し、最終的には、これはいったいだれの責任かという犯人探しで終わっている点が
不毛である。ザハ氏の本を読み、審査時の評価を見直すと、あれは評価されるべき点が
たくさんあり、それを今後に生かすことも重要である。
オリンピックの開催は日本人が自信を取り戻す良い機会である。その象徴となるスタジアムは、
単に建設費だけで評価されるものであってはならない。今度の新国立競技場が「日本が
世界に発信する力」を国民が自覚でき、誇りに思えるようなスタジアムになれば、それは
工事費以上の経済効果を生み出すかもしれない。
(堀内研自)
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◆読者の声◆ −みなさんからいただいた感想や意見を紹介−
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(みなさんからのご意見・ご感想をお待ちします)
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◆スペーシアのこの頃◆ −所内の話題をちょっと紹介−
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・全国各地で連日猛暑の日が続いています。暑い名古屋の都心で、60回目を数えた
円頓寺七夕まつり、テレビ塔周辺での栄フェト、世界コスプレサミットなどのお祭りや
イベントが開かれてにぎわっています。
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