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「やさしさ」って何? 〜本当に人にやさしい街をつくるために〜
2000年6月30日18:30〜 名古屋都市センター11階大研修室にて

シンポジウムに至る経緯
1.人にやさしい街づくり研究会の活動−「やさしさ軸」の提案へ

<人にやさしい街づくり研究会とは>

  愛知県では、1994年に「人にやさしい街づくりの推進に関する条例」ができ、その担い手をつくるため連続講座が毎年開かれている。人にやさしい街づくり研究会とは1996年の講座受講生を中心に、車いすを使用する人たちなどを含んで結成したグループである(総勢32名)。
 「人にやさしい街づくり」については、段差や通路の幅などハード面について、これまで多くの人が調査してきている。しかし、ハードの問題点が解消されてバリアフリーが実現しても、健常者と障害者が区分されたりよそよそしさがあったりして、再度利用したいという建物になっていない場合が多い。また、自治体がコントロールしやすい公共施設の調査はよく行われるが、病院、店舗といった日常よく利用する施設や、文化施設、娯楽施設などレクリェーション施設など行きたい施設、楽しみたい施設の調査例は少ない。そこで、建築賞、都市景観賞など顕彰施設を対象とすれば、人に心地よさを与えるポイントを探ることができ、公共施設だけでなく様々な施設を調査できると考え、名古屋市内の顕彰施設>212件を調査対象とした。

<調査の経緯>

●1次調査(1998年8月〜12月)
 名古屋市内を7つのエリアに分け、グループで分担して実地調査を行った。車いす使用者専用駐車スペースの状態、アプローチの状態、施設内の自由な移動の可否、トイレの状態などをチェックし、212件からおすすめ施設を45件ピックアップした。



●2次調査(実地調査−1999年1月〜4月、施設担当者へのヒアリング−2000年2月〜5月)
 施設用途による特性があるため、各施設を同列で比較することは困難であり、施設を用途別に分類した。各項目から最終対象施設を1件ずつ拾い上げ、15件を2次調査施設とした。ハード(使いやすさ)、ソフト(心地よさ)、マインド(心づかい)の3方向から実地調査し、また、施設担当者へのヒアリングも行った。ハード面(車いす使用者への配慮、視覚障害者への配慮、高齢者への配慮、選択の自由度、わかりやすいサイン等)、インド面(接客の親切度、小さな工夫、熱意、独自性、メンテナンス)はそれぞれの項目を5段階で評価し、ソフト面は次項のやさしさイメージ調査で用いた調査シートによる評価を行った。



●やさしさイメージ調査(1999年1月〜8月)
 カラーコーディネートのために考案された調査シート(日本カラーデザイン研究所)を利用した。これは、調査シートにある形容詞語の中から20語を選び、そのイメージをWarm軸(横軸)、Soft軸(縦軸)上に体系的に表現するものである。「やさしさ」をイメージさせる言葉を、高校生以下から70歳以上までの669名に選んでもらった。その結果、年齢に関係なく、「親しみやすい」「居心地のよい」などの言葉が多くなった。我々は上位20語を「やさしさ軸」と名付けた。



<とりまとめ→「やさしさ軸」の提案>

 2年にわたる活動を通じ、以下の3点が必要であるとわかった。

●「やさしさ軸」をこれからの施設の計画・運営に
 ハード、マインドとも評価の高かった施設は、「やさしさ軸」により近くなった。施設をつくる側や運営する側に「親しみやすい」「居心地のよい」などのキーワードに配慮することが必要である。ただし、娯楽施設や文化施設など、施設そのもののイメージが強い施設では必ずしも「やさしさ軸」には当てはまらない場合がある。

●「マインド面(心づかい)」の充実のため運営サイドの意識向上
 実地調査でも、車いす使用者用の駐車スペースに健常者が駐車したり、視覚障害者用の誘導ブロックの上に物が置いてあるなど、これらの意味が理解されていない場合が多く見受けられた。今回の調査で評価の高かった施設は、運営側の努力が見られた。


●選択の自由性(普通に使えること)
 過度な障害者への配慮や、決められた場所や出入口でしか利用できないなど、まだまだ障害者の利用には制限があり、もっと自由に選択できる配慮が必要である。

<人にやさしい街づくり研究会が選んだ15施設>

 研究会のメンバーが2次調査に選んだ15施設は以下のとおり。ハード面だけでなく、「心地よい」「楽しい」などと感じられる「やさしい施設」である。この中にはよく知られている施設もあり、「人にやさしい」視点で見つめ直すと、その施設の違った面が見られるかもしれない。

用  途

2次調査対象施設

コンベンション・研修施設

カトリック研修センター(昭和区広路町−2000年3月で閉鎖)

図書館

愛知県図書館(中区三の丸)

博物館・美術館

産業技術記念館(西区則武町)

劇場・演劇練習場

名古屋市演劇練習館アクテノン(中村区稲葉地町)

スポーツ・観覧施設

ナゴヤドーム(東区大幸南)

病院・医院

カネマキ医院(南区桜台)

福祉施設

野並保育園+野並デイサービス+あいち診療所野並(天白区福池)

飲食店

焼肉長水苑(南区弥次工町)

物販(書籍)

三洋堂書店本店(昭和区隼人町)

物販(文具)

栗田商会(中区上前津)

スーパーマーケット

ワンダーシティ(西区二方町)

娯楽施設

大一パチンコ昭和橋通店(中川区昭和橋通)

展示場

JETRO輸入車ショールーム(中区錦)

複合ビル

中日ビル(中区栄)

公園・緑地

とだがわこどもランド(港区春田野)



2.21世紀委員会とのジョイント

 21世紀委員会は、建築の設計者、施工者などで構成される(社)日本建築協会東海支部の若手メンバーが中心となって活動している。名古屋の新しいスポット栄南にあるナディアパークを見学し、「勝手に改善提案」をしたり、外から講師を迎えたり、メンバーが講師となって報告をするなど、2年前より活動を続けてきた。その成果は<「設計者に求められる人にやさしい感覚」〜「人にやさしい街づくり条例」の原理、原則を知る」>というレポートにまとめられた。
 人にやさしい街づくり研究会のメンバーの数人が21世紀委員会に顔を出したこともあり、21世紀委員会とのジョイントが実現した。最初の合同会議は今年の3月末に開かれ、シンポジウムまでの間、何回も打ち合わせを重ね、当日を迎えた。その際、会場となる名古屋都市センターとの打ち合わせ、レポートの印刷、当日の細かなスケジュールなど、ほとんどの部分で21世紀委員会のメンバーにはお世話になった。

シンポジウム当日

 当初、どれだけの参加者がいるか不安視されたが、メンバーが各方面に声をかけたこともあり、当日は180名と満席だった。OHPによる視覚障害者のための要約筆記は、初めての人にとっては新鮮だったのではないか。

0.風穴一座によるノーマライゼーションの紙芝居
人にやさしい街づくり連続講座の1999年Bグループのメンバーが、卒業後も活動を続けている。私は会場スタッフとして動いていたため紙芝居は見られなかったが、お客の入りからして、ファンは確実に増えているようだ。

1.21世紀委員会からの報告・人にやさしい街づくり研究会からの報告

 21世紀委員会の篠原佳典氏(安井建築設計事務所)と人にやさしい街づくり研究会の里村悟氏(INAXヘルシーコミュニティCoCoka)からの活動報告である。詳しい内容は上記のとおりである。どちらも飲み会という気軽な活動に端を発してはいるが、自治体職員、教職員、メーカー、建築設計者、コンサルタントなど職種も年齢も様々なメンバーが集まり、施設を調査し、調査のとりまとめを分担し、議論を重ね、提案に至ったプロセスこそが、「やさしさへのアプローチ」を考える上で重要な点であろう。



パネルディスカッション

 愛知県の人にやさしい街づくり連続講座の仕掛け人で、我々研究会のご意見番でもある星野広美氏をコーディネーター、車いす使用者の立場から鈴木林氏、障害者の親の立場から半田市在住の杉森英子氏、建物の発注者の立場からパチンコ屋のオーナーである平林昇治氏、建物の設計者の立場から日建設計の若林亮氏の4名をパネリストとして迎え、それぞれの立場から意見を述べた。

<鈴木林氏>−オートバイ事故で車いす生活となった。いろいろな場面で障害者自身が「自己主張」する事が必要。福祉の先進国であるスウェーデンでもハードでクリアできないところがあり、そこは周囲の人の思いやりで暮らしている。

<杉森英子氏>−障害を持つ子供が、どれだけ不便でも健常者と同じ職場に通い続けている。ハードは整っていなくても、周囲の人間の思いやりによりバリアはクリアできる。

<平林昇治氏>−2次調査で評価が高かった「人にやさしい」大一パチンコの支配人。大一パチンコは、可動式の席を96席(486席中)設け、イスをどければ車いすの人でも健常者の隣でパチンコをすることが可能。また、休憩ロビーが地域の人の「たまり場」になっている。社員にも「お客に感動を与えるドラマづくり」を心がけさせている。特に福祉という視点はなく、人にやさしい施設づくりにソフト・ハード面から両方取り組み、商売に結びついている。それもOKか?

<若林亮氏>−デザインに配慮しつつ、やさしい街にするのが設計者の腕の見せ所。でもやさしさについて考えている設計者ではまだ少ないのではないか。

最後に

 シンポジウムを終えて打ち上げとなって、改めて多くの人が関わっていることを知り、これからの街づくりは手間をかけても多くの人が参加し、その思いを反映させていくことが必要であるかを実感した。今回取りまとめた結果を今後どのようにPRし、実際の施設や街づくりに活用していくか課題であるが、ちょっとしたハード面の工夫や配慮で、または周囲の人の思いやりでクリアできそうである。調査段階で取り上げた15施設以外にもおすすめ施設はあり、これらも紹介できないのは残念だが、このシンポジウムで「人にやさしい」福祉施設ではなく、「人にやさしいパチンコ屋」を紹介できたことと、施設づくりにおけるユーザー側とオーナー側が同席してディスカッションできたという2点で、成功だったと言えるのではないか。

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●写真(上から順)
   シンポジウム当日の様子
   人にやさしいパチンコ屋「大一パチンコ昭和橋通店」の全景
   人にやさしいパチンコ屋「大一パチンコ昭和橋通店」の可動式の席

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左写真は我々、人にやさしい街づくり研究会の調査結果を取りまとめたレポートです。 本編が300円(40ページ弱)、資料編が1200円(134ページ)です。

問い合わせ先:人にやさしい街づくり研究会事務局<スペーシア内>

山内 豊佳  E-mail:yamauchi@spacia.co.jp
浅野 健  E-mail:asano.takechi@spacia.co.jp



 

(2000.7.7/浅野 健)