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徒然随筆「岐阜県における近代建築02(石原美術と日下部邸)」

 岐阜市米屋町に和館と洋館とが融合した建造物がありました。和館は数寄屋造りの住宅と一部商業店舗が入居し、洋館には美術商(画廊)が入居していました。竣工年は大正初期で、建設に約6年掛かったそうです。当時の近代建築デザインを具現しており、和洋の建造物が同一敷地内に連続して建てられた稀少なものでした。同様の建造物は日下部氏の先代が造営したため、神戸と函館に現存しています。
 日下部邸の文化財的価値は有識者により明らかではありましたが、材工とも当時の技術の粋を集めたものでした。1階は式台のある正面玄関から応接用、客用、仏間などの和室が配置され、使用された材木(銘木)等はかなり稀少なものでした。また和室の奥は中庭を囲むように水周りの便所や浴室等が配置されていました。2階は主な和室が4室で、個々の室内デザインは特徴があり、特筆すべきは船舶内の洗面台のデザインを踏襲した洗面台もありました。一方日下部邸の和館隣地の洋館は、多くの著者や文献に記述されていますので、概略を述べます。構造はレンガ造地下1階上部3階建て、玄関はギリシア様式の柱と桁、外壁はレンガと石貼、砂利洗出し仕上げ、内部はタイルと木製壁仕上げで暖炉もあります。現在は「石原画廊」として開設されています。
 平成17年5月、所有者日下部氏よりの依頼により保存活動を始め、保存する会を発足しました。その後保存する会はNPO法人化しましたが、関係官庁との協議は一向に進みませんでした。当時の要望としては、官庁迎賓館としての活用と一部商業店舗等による活用を提案していました。平成18年12月に大学と学会等有識者による見学会と保存要望書の提出、平成19年1月には近隣住民による署名活動(約2,000人)と署名簿を提出しました。この保存活動に関わる一連のマスコミ等の協力による広報と、可能な手段を尽くしましたが、平成19年10月に和館のみ解体されることになりました。洋館については賃借者の強い保存意向と歴史的経緯のため、解体されず残されることになりました。
  歴史的建造物の保存は所有者にとって誠に維持管理しづらいものであることを経験できましたが、一方で歴史的遺産である建造物が消えていくことによる歴史の消滅は国民的課題であると考えます。所有者の意識は大切ですが、文化財的価値のある建造物や建造物群を保存活用するよう住民(市民)が努力し、それを行政がきちんとバックアップしていく体制を構築していくことが大きな課題と考えています。















関連ページ 石原美術ホームページ
http://www7a.biglobe.ne.jp/~ishi-art/

(2012.11.5/嘱託研究員・田中清之)