NPO法人ひとにやさしいまちづくりネットワーク・東海は、2003年の設立以来、愛知県を主な活動エリアとして「ひとにやさしいまちづくり」に取り組んできており、年1回程度、各地の「ひとにやさしいまちづくり」「福祉のまちづくり」の視察を行う先進地スタディーツアーを行ってきている。その一環として、本年6月に三重県のバリアフリー・ユニバーサルデザイン(UD)事情について視察した。
まず、三重県健康福祉部のユニバーサルデザイングループの方へのヒアリングを実施した。三重県では、平成11年4月に「三重県バリアフリーのまちづくり推進条例」を施行、その後「バリアフリーからユニバーサルデザインへ」という時代の流れの中で、平成19年3月に条例を改正して「三重県ユニバーサルデザインのまちづくり推進条例」とし、UDのまちづくりを推進してきている。主な取組については、条例に適合した施設への適合証の交付、地域での担い手を育成するためのUDアドバイザー養成講座やフォローアップ講座、UDアドバイザーによる学校等でのUDの講座を推進するためのUD推進担い手育成研修等がある。また、三重県のUD条例では、その対象が施設整備だけでなく製品・情報・サービスの提供も含んでいることが特徴だと言える、しかし、UD条例の中では、施設の整備基準が明確に規定されているのに対し、製品・情報・サービス提供については明確な規定がなく、ようやく今年になって県のホームページで3社4件が紹介されたという程度である。したがって、三重県のUD施策でも主力は施設整備であろう。
三重県のこのようなUDへの取組の思想は、今回の訪問先でも見ることができた。具体的には、日本古来の木造寺院建築でありながらバリアフリー化整備を進めて適合証を受けた「真宗高田派本山専修寺」(津市)、商店街全体でユニバーサルデザインのまちづくりに取り組む「高柳商店街」(伊勢市)、まちなみ保存に取り組むNPOの活動拠点になっている「伊勢河崎商人館」(伊勢市)、海に関する数々の資料を所蔵し建物が建築家内藤廣氏の設計で有名な「海の博物館」(鳥羽市)等を見学した。いずれの施設も観光やまちづくりの面で拠点的な施設であるが、バリアフリーの点から見ても大半を車いすで見学できるため評価できる。
一方、まちなかに目を向けると、主要駅の駅施設のバリアフリー化工事は進みつつあるが、鉄道の高架化あるいは自由通路の整備が進んでおらず、鉄道によるまちの分断の解消に至っていない。象徴的なのは、桑名、津、松阪、伊勢、鳥羽といった主要駅で、いずれもJRと近鉄が接続していて鉄道の選択や乗り継ぎには便利だが、鉄道を利用せず線路を越えて反対側に抜けたい人にとっては移動距離が長くて不便を強いられる。
また、このツアーでは車いす使用のメンバーも参加するため、客室がバリアフリーである宿泊施設の手配も必要である。今回は、メンバーが訪問先である津、松阪、伊勢、鳥羽、志摩などの宿泊施設のホームページを個別に調べ、1日目は松阪駅周辺、2日目は志摩横川駅周辺の宿泊施設を選んだ。ツアー後に改めて三重県のホームページでこれらの都市の適合証交付施設を調べたところ、交付を受けた宿泊施設は志摩市にわずか1施設しかなく、今回利用した宿泊施設は掲載されていないかった(三重県ユニバーサルデザインのまちづくりの最新情報を元に集計)。新築、増築、改築、用途変更、大規模な模様替え等、いわゆる建築行為を行った時にはUD条例の整備基準を遵守するように指導を受け、それはすなわち適合証の交付の対象になり得るのだから、適合証施設がもっと増えてよいはずである。今回の訪問先で交付を受けた宿泊施設が1つしかないのは少なすぎで、適合証の意義をもっと民間に啓発していくべきではないだろうか。
このように、三重県としてはUDのまちづくりについて着実に取り組んでいるものの、民間への浸透度合いを考えると更なる普及啓発を引き続き行う必要があるだろう。しかしこれは三重県だけの課題でなく、愛知県をはじめ他の都道府県でも似た様な課題を有していると思われる。バリアフリー・ユニバーサルデザインのまちの実現に向けては、今後も息の長い取組が必要であると改めて感じた3日間だった。
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