この建物は明治時代にこの地へ私設図書館を開設させた岩瀬弥助氏の記念館である。氏の収集した古書には、図版を含むものが多く、特に愛知万博のポスターにも使用されている、高木春山のイラストは逸品である。この建物を設計した若山茂氏は、こうしたすばらしい蔵書をオープンにするには、どのような建築がふさわしいかと考えた。そして「本を建てる」ことを思い付いたそうである。それは、簡単に言ってしまえば古書の図版を焼付けプリントした柱をランダムに立て、建物自体を展示体としてしまうということである。文字で書くとなんとも陳腐であるかもしれないが、これが実際の建物を見てみると、すばらしいのである。柱は断面がL型、T型、I型とさまざまであり、それらが一見じゃまとも思える場所にランダムに立っている。訪れた人は、柱の随所に散りばめられた図版を楽しみながら、展示室や閲覧室を巡ることとなる。それは、まるでパラリパラリと本をめくる感覚を連想させる。ランダムな形態や配置は、センス良くまとめることが難しいが、この建物ではコンセプトと相まって魅力的な空間が生み出されていることに感心した。徒歩で行くには少し不便であるが、お勧めの建築作品である。
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