ビル全体を環境共生ビルとした日本で初めてのオフィスビル。「テナントもエコビジネスを対象としたものとしては、おそらく世界でも2番目のものではないか」とはこのビルを作った牧村氏の弁。太陽光発電や雨水利用など、様々な環境共生技術に対する関心が高まり、環境共生住宅も各地で建設されつつあるが、オフィスビルでここまで環境共生にこだわったものが、名古屋で作られたことを誇りをもって紹介したい。
1997(H9)年10月の完成の前から注目されており、当地域では新聞やテレビでも大きく紹介された。エコ・ビジネスの拠点として、様々な環境共生手法の実践やショールームとしての機能を持っており、定期的に見学会も実施されている。関心をもたれた方はその機会を利用されることをおすすめる。
1.建設の背景
京都市で減速機メーカーの社長だった牧村さんが、職を譲り、エコロジービジネスの会社を設立。学生時代から興味のあった環境問題に取り組む第二の人生を始めるため、所有していたこの土地にビルをたてた。天然建築材のあっせん業などを行いながら、ビル内の自宅で環境にやさしい暮らし方を実践している。
見学会では牧村氏が愛着を持って丁寧に説明してくれる。言葉の端々に時代を憂い、自分の考えを人に訴えようとする熱意が感じられる。「考えるだけではなく、自らがアクションを起こす時代」だとして、ビルの建設に当たっても、自らが壁塗りをやったり、建設に関わったという。「都市で環境共生は無理」との言葉を跳ね返す勢いを感じた。
2.採用されている環境共生技術
様々な技術が採用されているが、牧村氏が最も強調しているのは「ビルが土にもどる」こと。「石油系の建材は使わない」といいLCA(ライフサイクルアセスメント)を重視。建材も三河など国産のものを採用している。総工事費では、通常よりも20〜25%以上高いが、取り壊しの際のコストも含めて考えると安いという。5階のフリースペースでは家具等のリサイクルも行われている。机や椅子は名古屋女子大のもの。腰壁は足助の民家の建材。暖炉はガスストーブをリサイクルしたものなど。
接着剤などにも注意し、ホルムアルデヒドが発生しないようにしたが、3Fのテナントで測定したところ大量のホルムアルデヒドが検出されたという。その理由は、後から導入した家具にあった。木製家具で安全と信じてしまうのは間違いだという指摘は重みがあった。
その他の環境共生技術としては以下のとおり
- 屋根・屋上の緑化−ドイツで開発された薄型緑化技術(エクセル・フロー)。壁面緑化も計画されているが、今はまだ。数年たてば、外観はかなり変わるという。
- 雨水利用−地下に40トンの貯留槽。トイレや屋上緑化の散水に利用。常に循環しているので水はくさらないという。
- 太陽光発電−南東面の庇を利用したものは余れば買電。南西面の庇を利用したものは雨水を屋上にポンプアップするのに利用。
- 風力発電−雨水のポンプアップ用の電源として利用。都市内で設置することについては、音がうるさい等の問題点も指摘されていた。ここではシンボルとしての意味合いが強そう。
- ソーラー給湯−300リットル。
3.その他
入居しているのは、ここを設計した川原建築研究所の他、地元材を使った建築を行っているキットコーポレーション(株)という建築会社、NGO「自立のための道具の会」、デザイン系の会社など、小さいけれでもそれぞれが信念をもって取り組んでいるところばかり。牧村氏自身がそれぞれの代表者と面接して決めたという。
ビルの北側には名古屋市の「どんぐり広場」があり、子ども達の通学時の集合場所になっている。この境界のフェンスをとってほしいと交渉し、どんぐり広場からグリーン・フェローの1階ピロティに自由に行き来できるようになっている。ここには地下に貯めている雨水をくみあげるポンプもあり、毎朝、子ども達と一緒に1階のイングリッシュガーデンの水やりをするという。まさに環境共生活動の情報発信基地であり、環境教育の実践の場ともいえる。
見学会の最後で「この木の名前は知ってますか」と問われ、誰も答えられなかった。「環境共生をめざす人は植物の名前もよく知っていてほしい」。見学会もまた環境教育の場であった。
【見学会】 毎週水曜日・毎月第1日曜日(個人1,000円、法人1,500円)
*写真は5月2日の見学会の際に撮らせてもらったものである。 |