5月から一般公開が始まった名古屋城本丸御殿を見学した。
本丸御殿は、京都二条城の二の丸御殿と並ぶ武家風書院造の双璧と言われ、城郭としては昭和5年に国宝第一号に指定されたほどの建物である。その後、昭和20年5月の空襲により天守閣とともに焼失してしまうのだが、この建物は実測資料や写真など、数多くの資料が保存されており、また、狩野派の絵師たちが描いた国宝級の障壁画なども多くが避難して無事だったため、完璧に近い復元が可能となった。
本丸御殿の工事は平成21年から始まり、平成30年の完了をめざして今も工事が進捗中である。今回完成したのは、第1期の玄関と表書院の部分である。
外観は、時代を経てきた建築にはない新築独特の軽やかで凛とした表情が印象的だ。中に入るとヒノキの香りにつつまれた白木の空間が広がる。上質なヒノキの床板はすべすべでやわらかい感触が足に伝わる。思わず柱などに触りたくなるが、内部は、障壁画はもちろん、柱や建具も触ることが禁止されている。白木にむやみに触れると、人の手油が後で浮き出てきてしまうのでこれは守ってもらいたい。上質なヒノキを贅沢に使うことで初めて建設が可能な、一級の日本建築を堪能できる。
また、精緻に復元模写された障壁画も見事である。当時の材料や技法で忠実に再現された本物の日本画を、美術館での鑑賞ではなく、建築空間として体験できるのが贅沢である。
本丸御殿の見学を終え、天守から復元現場を眺めてみると、天守と御殿が共存する名古屋城本来の姿を想像せずにはいられない。絢爛豪華な桃山文化を象徴するような城郭が、ここ名古屋に壮大なスケールで再現されるのである。完成の暁には、世界的に誇れる観光スポットになるかもしれない。特に今の季節は隣接する愛知県体育館で大相撲名古屋場所が開催されており、浴衣姿の力士が闊歩している。外国人にはこれぞ日本という光景に出合える場所になるだろう。
思い起こせば、この復元は総事業費150億円という巨額の事業で、リーマンショック直後の平成21年から始まったため、当時は反対も多かった。しかし、実物を目にすると、その歴史的な重みと本物が持つ迫力に、お金では買えない大きな価値を確信できる。平成30年の完成に向け、周辺を含めた街づくりにも期待が膨らむ事業である。
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