10月10日から11月15日まで名古屋中区の長者町地区で、あいちトリエンナーレ2010のプレイベント「長者町プロジェクト2009」が開催された。長者町地区は東京日本橋、大阪船場と並ぶ日本の三大繊維問屋街の一つとして発展してきた町である。昨今の繊維業界の不況により、空きビルも目立ち始めていたが、あいちトリエンナーレではメイン会場の一つとなり、アートイベントによるまちづくりの進展が期待される。このイベントでは10か所ほどの建物で展示やイベントを開催していた。
作品の中には市民が制作に参加できるものもあり、自分も事前に行われたトーチカというアーティストの作品制作のワークショップに参加した。トーチカさんは、光で描く絵やアニメーションが有名で、最近はTVでもしばしば目にする。今回は、ピカソの絵画を光を使ってみんなで描こうという作品「ピカピカピカソ美術館」を制作する。制作方法はシャッターをオープンにしたカメラの前で懐中電灯の光を動かすと、それが線となって記録されるという単純なものだが、これで絵を描くとなると非常に難しい。自分の描いた線は実際には何も無いのでそれを記憶しつつ想像で絵にしなければならない。さらに、慎重になりすぎると光の線が震えてしまい美しい生きた線が描けないというも起こる。作家さんも参加者やボランティアとともに現場で試行錯誤をしながら制作を行った。その結果は、旧玉屋ビルという建物が「ピカピカピカソ美術館」に生まれ変わり展示された。懐中電灯で描いた線はゼリービーンズのようなカラフルなてかりを放ち、ポップで愉快な絵に仕上がっていた。
作品展示の会場は築数十年の空ビルなどを利用しているが、異彩を放つのがインフォメーションセンターが置かれた長者町繊維卸会館だ。木製サッシにペンキという昭和の佇まいがとても魅力的だ。1、2階には小部屋がいくつも連なり、それらが展示空間となっている。たまたま居合わせた愛知出身のアーティスト、斉と公平太さんに話を伺った。斉とさんは「LOVEちくん」というあいちトリエンナーレ非公式のキャラクターを勝手にデザインし、商標登録までして、公式に非公式キャラクターのぬいぐるみやTシャツを販売するという作品?を出展している。先日彦根で開催されたゆるキャラまつりにも「LOVEちくん」の着ぐるみを作成し参加しており、そのあまりにぞんざいな完成度が話題になったそうだ。非公式でいいかげんなものを、正式な大舞台に出すことに面白さがあるのだろうか、そのあたりを聞いてみると、「やっぱり公式キャラクターにならない方がいい?」と逆に疑問形で返されてしまった。どこまでもゆるく奥が深いようだ。
あいちトリエンナーレも、まだプレイベントということであまり耳にする機会が少ないが、長者町地区では徐々に浸透しており、地元との協力関係が築かれつつあるようだ。今後も街の変化に注目したい。 |