「北勢線に悲願の冷房車、来月上旬から導入(毎日新聞)」。先月末、こんな新聞記事が載っていました。たかが冷房導入なのですが、これが記事になる北勢線とはどういう鉄道なのか、かつての沿線住民であった私の独断を交え、この機会に簡単に紹介しようと思います。
ご存知のように北勢線とは、三重県桑名市の西桑名駅といなべ市の阿下喜駅を結ぶ全長20.4km、住宅地と田園の中を走る私鉄線で、開業大正3年、H14に廃線危機から免れたことでも有名です。
北勢線の特徴として私がまず挙げたいのが、レールの幅です。人の歩幅より若干広い程度の762mmしかない日本でも大変珍しい特殊狭軌の「軽便鉄道」であるということです。日本に3路線しか残っておらず歴史的にも貴重な産業遺産なのです。ほかに、私がいいと思う点は、そのスピードと車内の造りです。狭いレール幅のため、スピードが出せないのでしょう。最高速度は時速45km、カーブでは人が走れば追いつけそうなほどゆっくりと走ります。余談ですが、私が幼少のころは自転車でよく競争していました。時間に追われる現代にあっては、こののんびり具合に親しみがもて、それがまた田園の中を走るのでその風景はとても牧歌的です。また、車内もこじんまりとした造りで、座席に向かい合って座ると、対面の人と足が触れるほど。クーラーは当然なくこの時期は扇風機がブンブン回り、窓全開で走っています。開業から90年という古さを今も感じられるレトロで愛嬌のある電車なのです。
しかし、これも裏を返せば、遅くて不便、狭くて窮屈、快適じゃないなどすべてマイナス点でもあります。こういったマイナスと車社会の浸透が重なって生じたのが、ご存知の廃線危機です。しかし、このときは住民・利用者からの嘆願や沿線自治体・県の資金援助などによって、運営主体は近鉄から三岐鉄道に変わったものの、辛うじて存続を守ることができ、以降、関係自治体・機関で作る対策協議会をもとに、マイナス点改善のため近代化・高速化に向けた様々な事業が、ものすごい勢いでこの3年余りの間に展開されてきています。
具体的には、老朽化した駅舎の建替え・バリアフリー化、駅の統廃合、自動改札の導入、パークアンドライド用の無料駐車場の設置、今回の新聞記事のように列車設備の近代化など、鉄道施設に関わるハード面の改善。さらにはまちづくり的な視点、観光的な視点から、コミュニティバスとの連携、駅舎と産直施設の併設、沿線のまち歩きイベントの開催、周辺イベントと併せた記念切符販売などなど、多彩なソフト事業も展開しています。
その結果か、輸送人員の統計をみると、その数は昭和50年の約595万人から平成16年度の約192万人まで毎年続いた減少が、平成17年度には下げ止まり、約206万人まで増加しています。近年、環境問題や市街地のコンパクト化などから公共交通が見直されつつありますが、北勢線も今後、沿線地域の人口減少や大半の利用を占める学生数の減少などの課題が顕著になる中で、再度、地域の足として復活できるのかどうか、これらの事業が実を結ぶのかどうか大変に興味があります。是非、読者の皆さんも機会があれば、乗っていただきたいと思います。
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