このメールマガジンでも、何度か紹介している「パティオニシハル」が、「すまいる愛知住宅賞」の都市再生機構中部支社長賞を受賞した。「パティオニシハル」とは名鉄西春駅の駅前商店街に昨年オープンした店舗と住宅からなる複合施設で、我々が企画し、3人の権利者の合意を図り、鞄本設計名古屋支社と共同で設計した優良再開発事業である。毎年「すまいる愛知住宅賞」では、「ゆとりある住まい」を実現した住宅に対し、表彰を行ってきているが、「パティオニシハル」を通して感じた、これからの「ゆとりある住まい」を考えてみる。
近年、日本の住宅も一戸建てで平均約40坪と、大きさだけから見れば豊かになってきており、さらに、世帯人員の減少により、部屋も余るほどになってきている。それらは、納戸として使用されているのが実情だろう。また、設備も充実し、水廻りを中心に豪華さ競う住宅産業の広告が目に付く。これらは、ゆとりと言えば言えなくはないが、住宅に住む個人の要求を満たすだけのものと受け取ることができる。「パティオニシハル」では、3人で土地を出し合い、一般に開放された広場を整備した。これは、「まちづくりに協力したい」という権利者の強い願いが形になった結果である。商店街の活性化のため、自分たちの住まいにできる社会貢献を実現した、数少ない事例である。
また、近年の住宅は防犯やプライバシーの問題で、外部に対し閉じていく傾向が強い。「パティオニシハル」では、パティオ広場で音楽会を開催したり、オーナーがアトリエをもち、アート教室を開いたりと、外部の人が入ってこられる場所を想定して設計している。外に開きながら、防犯の対策とプライバシーを守る工夫が計画段階から盛り込まれている。しかし、何より心強いのは、3人が管理方法を話し合い、常にそういった問題に目を光らせている点であろう。防犯対策として、地域のコミュニティが強力な力になることは、さまざま地区の事例が物語っている。
機能的には充足した現代の住宅にとって、新たな「ゆとりある住まい」とは何か。それは、さらなる個人の要求を満たすことではなく、1軒の住宅が人や地域とつながり、社会の中で何ができるか、ということにあると思う。「パティオニシハル」のように個人が公共的な広場をつくり、他者に開放するような施設を造り上げていくことは、大変な負担を必要とする。しかし、それを隣人と助け合いながら実現していくことは、新たな喜びを生み出す可能性を秘めている。「パティオニシハル」のオーナーたちが生き生きとした新生活をおくる姿を見ていると、そう感じるのである。
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