愛知県西尾市は、名古屋から名鉄電車で約1時間ほどのところにある、抹茶の生産量が全国一のまちである。江戸時代には松平6万石の城下町としてにぎわい、現在でもその名残が残っていて西三河南部の小京都といわれている。
井桁屋は江戸時代から続いた地元の呉服屋が開いた百貨店で、1924(大正14)年頃に西尾ではじめて屋上庭園のある鉄筋コンクリート造3階の建物を完成させた。建物はルネサンス様式を基調として屋上には2階分程度の塔屋がついており、西尾の城下町を象徴するシンボルであったことが想像できる。その後、戦時下の物資統制により閉店し、戦後一時的に営業したものの、再び閉店して現在に至っている。
この建物は2002(平成14)年に、前面道路の拡幅工事に伴って取り壊すか、市が所有者から寄贈を受けて保存するかが迫られている。市の方針は未定で、市民を交えた検討委員会設立の準備を進めている段階である。
旧井桁屋を考える会は、「将来の納税者である私たちに必要か否かで保存するかどうかを決めたい」と思う地元の大学生や高校生らが2001(平成13)年4月に結成した。旧井桁屋の保存の是非を巡って保存を前提にせず市民レベルでの議論の盛り上がりを図るため、これまでにフリーマーケット、コンサートをなどのイベントを行なったり、建物の保存に関する専門家の招聘や会の運営や建物の光熱費などに充てるための募金活動も行なってきている。同年6月には元X・JAPANのToshiさんもかけつけてライブを行なった。
暮れもおしせまった日曜日に、フリーマーケットの開催に併せて井桁屋に訪れたが、周辺の商店街は人通りが少なく、フリーマーケットの出店数も少なかったこともあってか、残念ながら集客にはあまり結びついていない感があった。2階以上は老朽化が進んでいるため、イベントなどでは1階しか使っていないが、メンバーの方にお願いして屋上まで案内してもらった。屋上からの見晴らしはよく、高層の建物が周辺に少ないことからかなり遠くまで見渡せた。空き店舗が目立つ地方都市の中心部の商店街で、個人所有の建物で半世紀も遊休化されたままよくぞ残ってきたというのが実感である。
この建物を保存する場合は、建物の改修費と建物を移動させるための費用で2、3億円、改修後の維持管理費で2、3千万円かかるという(ホームページより)。また、所有者もこの遊休化した建物の固定資産税を支払い続けなければならいという問題もある。中心部のシンボルである旧井桁屋が将来も残るためには、建物の改修や運営・活用方法など、行政、市民双方で議論されなければならないことが山ほどある。また、考える会ではあまり議論されていないようだが、道路の拡幅そのものがまちにとって必要かどうかも議論する必要があるのかもしれない。あと1年余りで結論を出さねばならないが、保存・活用できるか取り壊しになるかにしろ、10代のメンバーを中心とするこの取り組みは興味深いものがある。
商店街に並ぶ旧井桁屋 |
当日のフリーマーケットの様子
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屋上より西尾駅方面を見る |
メンバーの高原(右)さんと尾崎(左)さん
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