橦木館は、スペーシアも今まで何度も取り上げてきましたので、よく知られていますが、近代建築の家々が残る東区白壁の中でも先駆的なまちづくり活動をしてきました。
もともと大家さんの好意で、地域の人たちの何かお役にたつならと、5年間だけ5組の店子の手に渡され、時には議論の場になり、時にはお祝いの席になったり、劇場になったりして、多くの人たちが橦木館の門を通りました。多くの人たちの評価を得て、当初は5年間だった橦木館の約束は、その後7年になり、そしてついに今年2002年の12月で門を閉じます。
1年半ほど前、中部電力が主催し千葉大の延藤先生を隊長とした「中部すまいまち育て探検隊(略称:住まち探検隊)」が結成されました。
学生や主婦、建築や行政などの色々な立場の「市民」が集まって住まいや自然の環境づくりについて、考えていこうという会です。この活動の中から特に参加者の関心の高かった、橦木館の保存について「スプリング隊」という活動が生まれました。
しかし、このスプリング隊の活動は、建物を保存するということが主体の目的でしたので、店子の人たちは橦木館の活動のために7年もの月日、600坪の資産を、黙って維持し続けてきた大家さんの気持ちを汲み、保存を前提としたこの活動には参加しませんでした。こういった気持ちを理解し、スプリング隊の活動は建物だけの保存ではなく、建物を通して人が出会うことの大切さ、交流できる安心な場所づくりといった意味合いに変化しました。
そして、最後に生まれたのが次の3つの意義を唱える「橦木館育くみ隊」です。メンバーは今まで橦木館に関わった人、そして地域住民で組織されています。
1) 高齢者同士、若者とともに多世代の創造的交流の機会、そして健康と生きがいを高めるとともに地域コミュニティを内から元気にする市民活動
2) 次世代に伝えるべき市民財産としての近代建築の保全・継承・再創造
3) ハード・器としての近代建築の活用と、ソフト・市民活動育成を育み、それを運営しうる担い手としてのNPOの創設する新しい社会機運を盛り上げる
この活動には5組の店子も賛同し、橦木館では、「まちの縁側」をテーマに、育くみ隊による交流のイベントが、この一年間を通して、今後毎月行われます。
3月には鈴鹿の南部美智代さんによる「えんがわ」・4月には「まちんなか大正モダンの園遊会」、5月には「子どもとまちんなか文化」などが予定されています。夏には落語や夕涼み、秋には橦木館を題材にした演劇祭等々・・
今橦木館では、いくつかばらばらだった活動が一つに纏まろうとしています。なにより大切なのは、建物を残すことだけでなく、地域の人が幸せに生きていくことなのだからという考えが生まれ、地域住民を中心に活動が始まったからです。
橦木館だけでなく、白壁の近代建築群は今また次々と姿を変えています。時代とともに建物の姿は変わっていこうとも、かつてその縁側を取り巻いた人の輪が地域にしっかりと残っていくのであれば、それはまた、「文化ある道」といえるのではないでしょうか。
|