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橦木館

 番茶茶屋とは、江戸から明治にかけて、名古屋の久屋大通りにあったという、人が気楽に立ち寄って自由に話しのできる場所のこと。そんな場所を現代にもよみがえらせようとしたのが橦木館の取り組みである。

 橦木館のある白壁・主税・橦木地区は名古屋市の町並み保存地区に指定されているところで古い町並みが残されている。しかし、ここでも古い屋敷が維持管理の大変さからマンションへと変わるものも少なくなかった。橦木館が借り受けた井元邸も数年前から空家になっていた。管理に腐心していると聞いたデザイン会社社長の伊藤晴彦氏が自由気ままに何でもできる場所として使いたいと申し入れ、5年契約で借り入れた。伊藤さんの呼び掛けにより、趣旨に賛同する知人の建築士事務所(住工房)やギャラリー・喫茶(自由空間)などが店子として入居するほか、店子を兼ねて知人夫婦が住宅を移した。こうして、市民の手による歴史的建築資産の保存・活用の取り組みがはじまった。

 建物は、名古屋で陶磁器輸出業・井元産業を興した井元家の屋敷であり、約2,000平方メートルの広大な敷地に、大正時代に建てられた約330平方メートルの平屋建て日本家屋と約200平方メートルの総二階建て洋館、茶屋を備えた約300平方メートルの庭園、蔵などがある。

 洋館の1階はギャラリー・喫茶「自由空間」で、古風な生活用品の展示販売や喫茶スペースが設けられている。日本家屋の一部はオープンスペースとして、市民の様々な活動の場として活用されている。

 1996年1月20日のオープンからすでに2年半が経過した。この間に橦木塾として、人々が集まり住む町を楽しい町にしようと、共に学び、語り合うことを目的とした、様々な催しが行われている。住工房が事務局となって第一土曜建築学校では、左官や大工などの職人さんから<しごと>の周りを語ってもらったり、自由空間の主催による「絵本まちづくり探検」という幻燈会方式の連続講座では、延藤先生をナビゲーターに市民が主体となる家づくり・まちづくりを考えたり、秋には文化月間として、様々な文化行事が行われている。愛知建築士会で行われた「国際建築トリエンナーレ’97in愛知」でも「建築資産をまちづくりに活かす」実践の場として橦木館が重要な役割を果たした。

 また、市では市民のこのような運動を後押しするため、1996年に井元家住宅を名古屋市文化財に指定した。

 契約がきれる2000年以降のことはまだ未定とのことだが、市民の手による歴史資産をまちづくりに活かす試みが継続することを期待したい。


(1996.9.4/竹内)