もう5年前になるが、オランダを訪れた時の強烈な印象として残っているのが、歩道とともに自転車道が整備され、スーツ姿の女性までもが通勤に自転車を活用していた姿である。ビルの1階には必ずといっていいほど駐輪場が整備されている。その後、環境問題への関心が急速に高まる中でオランダの自転車利用は大いに参考にすべきだと感じていた。
このあたりの問題意識に対して体系的に実証的データを用いて解説してくれたのが本書である。もちろん、自転車先進国としてオランダも「女王様も自転車を使う国」として紹介してくれている。当時の疑問であった「何故、オランダでは自転車利用が盛んなのか」についても、気候が温暖で雨が少なく平坦だからということだけではなく、自然を保護しようという国民性があるという。日本の「バスや電車がないから自転車に乗る」という消極的理由とは異なると…。
大いに自転車利用を促進すべきだという考えを持っていたが、それが簡単ではないことも指摘している。放置自転車の撤去を担当している行政現場は、自転車にウンザリしており、これ以上はもう自転車に増えてほしくないという抑止論の土壌になっている。まちづくりにおいて自転車を活かそうとするにはこのような実情を理解しておく必要があるという。モラルとの闘いという表現は問題の難しさを浮き彫りにしている。
とはいえ、これからのまちづくりの課題に対して自転車利用が解決の糸口となる期待は大きい。商店街の活性化においても自転車の活用が重要だ。共用レンタサイクルなどの先駆的な試みも行われており、さらに自転車のまちづくりを茨城県古河市のように自転車利用を前提としたまちづくりに取り組むところもでている。自転車というテーマはゴミ問題と同じく、市民一人ひとりが自分の生活様式を見直すことが必要となる。気候や地形など自然条件が異なることもあり、日本全体がオランダのような自転車先進国になることは難しいとは思われるが、地域によっては自転車が主役となるところも生まれてこよう。これからのまちづくりのキーワードとしておさえておきたい。 |