阪神・淡路大震災直後、建物調査のボランティア活動のために神戸を訪れた時に目にした鉄筋コンクリート造のマンション等の倒壊した姿がいまだに鮮明に脳裏に焼き付いている。あらから10年、被災地では懸命な復旧・復興への取り組みが大きな成果をあげている。居住者や関係者の努力による被災マンションの建替え実績は、今後増大する老朽マンション建替えに、法制度改正を含め、新たな道を切り開いた。しかし、一方、10年を期に再び多くのメディアが被災マンションの復興をめぐって、住民同士が補修か建替えかについて対立し、訴訟に繋がったケースを報じた。長年の法廷闘争の後、ようやく建替えが決まったものの、対立した双方に大きなしこりを残し、また、高齢者等の資力の乏しい居住者に厳しい結果となったことを指摘していた。
本書は、実際に阪神・淡路大震災による被災マンションの復旧・耐震補強に尽力した著者達が、「現場経験にもとづいて、(中略)、次の地震で被害を受けることを少しでも減らし、あるいは多少壊れてもすぐ復旧できるようにするため、基本的な考え方やノウハウについてわかりやすく書いた」と記述しているように、震災によりどのようなマンションが被害を受けたのかの実態調査と2つのマンションの改修事例を紹介するとともに、被害を受ける前の耐震化コストが被害後の改修コストや建替えコストに比べいかに安価であるかを検証している。そして、「解体新築を選択するにせよ、修復補強を選ぶにせよ、大被害を受けたマンションの再生への道のりは想像を絶するほど過酷である」とし、今後の震災に備え、既存マンションの耐震診断と耐震改修の重要性を唱えている。4年前の発行本であるが、近年、マンション管理の重要性から制定されたマンション関連の法律によりマンションの管理・改修に対するマンション管理組合の努力義務が規定され、筆者が指摘するようにマンションの危機管理が管理組合の自治に委ねられている状況に鑑み、マンション管理等に関わる者に是非紹介したい一冊である。
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