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由布院の小さな奇跡/木谷文弘著

新潮新書

 本書の構成は、第1章で亀の井別荘の中谷健太郎、由布院玉の湯の溝口薫平という2人の「まちづくりの達人」のエピソードにはじまり、第2章が由布院らしい「まちづくり」、第3章が「まちづくり」のあゆみ、第4章が「由布院へ来た人たち」、第5章が発展する由布院の悩み、第6章が由布院の麓に生きる、となっている。著者は元大分県庁の職員で、由布院の人々との十数年の付き合いの中で知りえたことや資料などから本書をまとめている。
 イベントの後の交流会、深夜まで続く勉強会、由布院の元気なおばさんたちの話や、「ゆふいん音楽祭」「湯布院映画祭」「牛喰い絶叫大会」といった由布院ならではの手づくりのイベントなど、由布院の取組みをあげればきりがない。そのルーツが、本多静六という日本で最初の林学博士となった人が大正13年に講演した「由布院温泉発展策」や、三十数年前に中谷、溝口、志手の3人が50日間にわたりヨーロッパを旅した時に南ドイツのバーデンヴァイラーという小さな温泉地で出会った小さなホテルオーナーの話にあった。新しいことにチャレンジしながらも、由布岳が見える自然をずっと大切にしながら取組む、このスタイルは当初からずっと貫かれている。
 まちづくりの成功事例として全国的にもたびたび紹介される由布院でも、外部資本が入って看板が乱立するようになった。そこで、平成2年に「潤いある町づくり条例」を制定した。由布院の眺望を壊さないという目安で、高さ10メートルを超えて建築される建物や千平方メートルを超える宅地の造成などは、開発に際して説明会などを開き、十分な理解を得ることとした。このような「成長管理」はある程度の効果はあげたが、高速道路の整備が進み、便利になり観光客も増えるから更なる外部資本が流入し、由布院らしくない施設も目立つようになった。「由布院は大きな転換期を迎えている」という。
 由布院でも景観、交通、環境など様々な問題が発生するようになっている一方、イベントや勉強会などで、リーダーシップをとっている若者が目につくという。由布岳が見える自然という財産をずっと大切にしながら取組む姿勢は、中谷、溝口らの世代から次の世代に受け継がれている。まちづくりは息の長い取組みであり、地域固有の資源を少しずつ活かしていくことが必要だということを改めて思い知らされた一冊であった。

(2005.3.7/浅野 健)