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八事・杁中歴史散歩−地元の会員が歩いて確かめた八事丘陵の意外な史実−

八事・杁中歴史研究会 著・発行/2015年8月8日発行

 八事(やごと)と杁中(いりなか)は名古屋市東部に位置し、様々な大学が立地する文教地区として、近年は地下鉄名城線の環状化により利便性の高いまちとして知られているが、戦前に一部区画整理はされたものの住宅地として整備されたのは戦後の昭和30〜40年代と言われている。本書は、八事・杁中地区にある滝川コミュニティセンター(名古屋市昭和区)の文化教養講座の参加者の中から10数名が集まり、研究会を平成25年に発足させ、この界隈を歩き、歴史を調査し取りまとめたものである。
 歴史を紐解くと、江戸時代には八事興正寺が建てられ、鹿狩りや松茸狩りが行われ、明治・大正には第1回選抜中等学校野球大会がこの地で開かれたり(大正4年4月、同年8月に兵庫県の甲子園球場が完成し会場は甲子園へ)、大きな遊園地が建てられた。今ではこれらの面影はほとんど感じられないが、平成になる頃まで市営バスのバス停名「八事遊園地」の名前が残っているなど、少し前まではその名残があったようである。
 本書について興味深い点をあげるとすると、1つ目は読み物として読みやすい点がある。豊富な歴史資料、新聞記事などの収集をしつつも物語的に丁寧かつ読みやすく書かれている。2つ目は、八事・杁中の歴史にとどまらず、幅広い視点から八事・杁中の歴史を位置付ている点がある。街道等を通じた名古屋城下町とのつながり、名古屋東部の八事丘陵(千種、名東、天白、昭和、瑞穂等)の地形的なつながりなど丁寧に描かれている。また、まち・建物・人物の歴史だけでなく、植物の歴史も描かれている。3つ目は、歴史の掘り起こしにより単に過去の出来事を学ぶだけでなく、未来を創造することも目指しているという点である。
 学術的な市町村市などの書籍の編集は重要である一方、本書のように市民目線で地域の歴史をわかりやすく伝えられる書物も重要だと思う。2年半で調査・記録し
約200ページもの書物としてまとめられており、各地で行われるまちづくりの参考になる一冊である。

関連ホームページ「いりなか商店街発展会」
http://www.irinaka.jp/event3.html

 
(2015.9.28/浅野健)