3月14日、東京と金沢を結ぶ北陸新幹線が開業した。北陸各地では大きな経済効果が期待されているが、ここではその中の一つ、富山市で平成17年と平成19年に市内中心部で完成した再開発ビルを活用し、中心市街地活性化の寄与を目的に整備された「富山グランドプラザ」に関する書籍をとりあげる。
グランドプラザは、2棟の再開発ビルに挟まれる形で区画道路を集約し、柔軟な運用を図るため道路認定も外し、さらに両側の再開発敷地のセットバックも含め公共空間(広場)として位置づけ、上部にガラス屋根を架けた特殊な事業で、公共空間でありながら運営は市民目線で取り組み、開業当初のデータでイベントは年間100件、休日の実施率100%が維持されていたという。本書は、当初から運営に関わったスタッフの奮闘、事業経緯、施設や実施イベントの特徴、市民協働の様子等が記されている。
グランドプラザの計画は、商業施設のバックヤードだったものを当時の助役の「一等地をバックヤードではもったいない」との意見を受け、広場、さらには雪国富山の気候風土に対応した屋根付広場として整備することになった。ただ、屋根があっても暑寒は感じて唯一雨だけは凌げ、それが人々の出会いの機会を多くする効果を生んだ。
この広場にはいくつか特徴があるが、多様なニーズに対応できるよう、テーブル、椅子、植栽を配置するが可動式で日常的な変化や、イベント時のフリーレイアウトを可能にしているほか、広場にありがちなシンボリックなオブジェはなく、空間だけで存在感を示し、待合せ場所等の利用に限定させず、自由な発想で活用できる効果を生んでいる。
運営面では、良好な環境、秩序ある利用を維持するため、主催者には最低限のルールだけを示し話し合い、普段利用する市民へはルールの熱心な説明やスタッフ自らの行動で示し、理解されてきている。また、ガラス屋根の清掃を時には会員がスパーダーマンに扮して市民へパフォーマンスサービスを提供している。
グランドプラザは、器や仕掛けを行政が担い、開業時は市直営管理だったが、市民主体へ移り、結果的に人々は自然と佇み、楽しみ、交流し、憩い、そして自分達で育てる広場として成熟してきている。本書で行政マンに関して紹介している部分は終わりのほんの一部で、裏方として現場に関わり支援してきた担当者の重要性が記されている。
私自身も数年前に訪れたが、ガラス屋根からの陽ざしが広場全体を明るくし、屋外と変わらないオープンな広がりとその空間に包み込まれているような心地よい印象だった。今後、再度訪問できる機会があれば新幹線効果をみつつ、スパイダーマンとの遭遇を期待したい。
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