本書は、『都市の風景計画―欧米の景観コントロール 手法と実際』(2000年)および『日本の風景計画―都市の景観コントロール 到達点と将来展望』(2003年)に続くものとして出版された。先に出版された2冊が、欧米、国内における景観コントロール手法の事例の紹介を中心的な内容としているのに対し、本書はそこからさらに踏み込み、どのような社会背景や理念にもとづいて景観コントロールが行われてきたのかという歴史的経緯を記述している。取り上げられている都市は、イタリア、フランス、ドイツ、イギリス、ベルギー、スペイン、アメリカ、日本の8カ国である。
それぞれの国の社会背景の変化に伴って、望ましいと考える景観のあり方やコントロール手法も変化してきている。例えば、シカゴにおける建物高さ制限の変遷の経緯などは興味深い。高層建築が都市環境に与える悪影響への懸念、土地所有者やデベロッパーの思惑、景気の動向、中心部への一極集中を是正したい周辺地区の思惑など、様々な要因が影響して、高さ制限が130フィート(約39m)から260フィート(約79m)の間で頻繁に変更され、スカイラインの揃った都市景観の形成には至らなかった。これについて本書では「摩天楼都市シカゴで高さ規制が、(中略)土地の市場性とのかねあいの中で実現してきた歴史を見ると、『都市美』を市場の言葉で語る必要性を痛感する。」と記述しているが、日本においても意識しておかなければいけない点であろう。
わが国でも景観法の制定後、風景・景観に対する関心が高まっているのが感じられる。先進的に試行錯誤を重ねてきた諸外国に学びながらも、自分の国に合ったコントロール手法を開発していかなければいけない。
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