タイトルのトゲウオとは、ご存知と思うが、イトヨ、ハリヨ、トミヨといった背中に数本のトゲがあり、産卵・育児のために巣をつくるという珍しい川魚の総称である。中でもハリヨは湧水のある水のきれいな川にしか生息できない種で、かつては三重・岐阜・滋賀の広くに分布していたが、開発等による湧水の枯渇、水質の悪化、水域の埋立て等によって、今では日本でも滋賀と岐阜のわずかな地点でしか天然での生息を確認できない絶滅危急種になってしまっている。
そのため、各地で保護活動が活発に行われており、岐阜県で天然記念物に指定されたり、各自治体でも文化財に指定したり、生息場所確保のためにハリヨ池等を整備したりと、積極的な保護に努めている。
この本は、幼いころにハリヨに魅せられた著者が専門家として、こういった危機的な状況にあったハリヨの保護活動を積極果敢に立ち上げ、展開してきた自身の数十年の活動を振り返るとともに、日本各地でのトゲウオ保護の取り組みの状況や、生息状況の変化、つまり減少の一途を辿るトゲウオの悲惨な実態、等を生態学的な解説とともに紹介している。
とくに共感できたのは、著者がハリヨを守ることを単に一淡水魚の保護ととらえずに、それを湧水域をもつ河川の豊かさ、ひいてはその地域全体の自然の多様性を守ること、ふるさとの水文化を守ることに直結するのだ、という広い視野でとらえている点である。ハリヨは地域の水資源を象徴するシンボルなのである。また、保護活動と一言にいっても、その実態は「まちづくり」であり、ハリヨが棲む水を「郷土のみんなの財産」ととらえ、その財産を守ることが自分たちの「生活する環境」を保全することにつながる。そして、その活動を「地域の文化」として根づかせることを著者は目指しているのだ。本からは西美濃地方各地で数十年にわたって根気強く、地元の住民や行政の協力を獲得しながら、そのまちづくりを地道に実践してきた著者の努力が伝わってくる。
何を軸にまちづくりを進めるかは地域それぞれだが、普段、町場のまちづくりに携わることが多い中、自然の中にもその軸となる資源がたくさん眠っていることに改めて気づかされた本であった。そして、何よりもこの東海地方にもまだまだ素晴らしい自然があるんだと感心させられた。
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