近年、日本各地から東京圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)への転入超過者数が増加傾向にある。東京圏では、1994年に戦後はじめて転出超過となったが、それから2年後の1996年、再び転入超過となり、それ以後増加の一途をたどっている。本書でも紹介されているが、1996年から2007年までの転入超過者数の累計は約112万人となっており、驚くべきことに、12年間で政令指定都市一個分の人口が全国から東京圏へ流入したことになる。これは、他地域の人口が確実に減少していることを意味している。なぜ近年、東京圏へ人口が流れているのか。その大きな要因として、地方に‘働く場が少ない’ことが挙げられる。特にここ1年程は、働く場を求めて、地方から東京、大阪や名古屋へといった人口の流れが目立つ。そうなると、ますます地方の人口は減少し、まちの活力も低下してしまう。本書は、そんな地方のまちにおいて、ごく自然的にまちづくりに関わった人々を取り上げ、活動を紹介している。
本書の面白いところは、地域活性化に関わる人々が皆‘自然体’であり、‘自立した個’であるという点である。まず、前者の‘自然体’とは、強い使命感に駆られて、とか、危機感を感じてまちづくりに取り組んでいるというのではなく、楽しみながら自らの仕事をした結果、自然とそのまちの活性化につながっている。人々のスタンスが極々自然体なのである。後者の‘自立した個’は、本書に登場する人々は皆、政府や企業に頼らず自ら考えたことを自ら実行に移している。本書を読んでいると、個の力がいかに重要かということがひしひしと伝わる。たった1人でも(もちろん、まちの人々の理解やサポートなど必要なものはあるが)まちづくりは始められる。というよりは、一人の力がきっかけとなり、まちが動いていくといった方がよいのかもしれない。例えば、本書に掲載されているプロダクトデザイナーの島村卓美氏は、高地県馬路村の特産品であった‘間伐材のおさら’からヒントを得て‘間伐材のバック’を開発し商品化している。その商品が東京・渋谷のショップで人気が出たのをきっかけに、今ではアメリカやヨーロッパにも顧客がいるという。もちろん、人気商品となった今でも商品生産の拠点は高地県馬路村。
この他にも、本書には、「ご当地ソングが広げる輪」や「“まち”をまるごと映画にする!」など、ものづくりから始まった事例も多々紹介されている。少し変わったまちづくりに出会える1冊だと思う。
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