複雑なソーシャルイシュー(社会的課題)を解決するために考え出されて、地域で実践されている、幸せになれるデザイン事例が多数紹介されています。デザインというと、モノ単体のデザインを思い浮かべる人が多いと思いますが、この本では、「コト」というソフトのデザインを指しています。たとえモノであったとしてもその生産から消費までサイクルやそのサイクルが影響を及ぼす範囲までを含めた「コト」、いうなれば地域や社会のしくみのデザインを指しています。
・衰退する地域を観光や地場産業などで活性化するためのデザイン
・廃油回収や新エネルギー発電など環境に優しい社会となるためのデザイン
・震災復興や教育など地域のコミュニケーションを促すデザイン
など30の事例が「直感的・身体的」に分かりやすく紹介され、著者が言うように、「過去に経験したことがないほど複雑で難解なイシューがあふれて」いて「複雑に絡み合い、問題の本質が覆い隠され」ている今の日本社会においては、明るい未来をともに築いていく勇気や知恵を感じられるものばかりです。著者はそのような「地域を変えるデザイン」をこう定義しています。「問題の本質を一挙に捉え、そこに調和と秩序をもたらす行為」「美と共感で多くの人の心に訴え、行動を喚起し、社会に幸せなムーブメントを起こす行為」と。まさに「幸せ」とは何かが問われている今、ひとつの解を指し示してくれていると思います。そして、そのような事例を通して、今後は、地域を変えるデザインをプロだけでなく市民自身が考えて具現化する、それも個人ではなくコミュニティが主体となっていくことが重要であるとの方向性を示しています。1人ひとりの考え方と行動が地域を変える鍵なのだということだと思います。まちづくりでは、市民参加が取り入れられて久しく、今では様々な立場の人たちが自分たちの街や地域を自分たちの手でつくっていくことが求められている時代になっています。この本はそのためにも大いに役立つ一冊であると思います。 |