学生の頃の調査が縁でナショナルトラストの会員になっており、1989年には白川村合掌造り民家の屋根葺きボランティアにも参加したことがあった。会報が送付されてきており、ナショナルトラストのことはある程度知っていたつもりであったが、会報の記事の背景にこんなにいろいろなドラマがあったとは・・・。著者の米山氏については屋根葺きの際に印象的な人物として記憶に残っている。たんに一度やってみたいという単純な思いだけで参加したのだが、あの屋根葺きもナショナルトラストが今日大きな役割を果たすようになる過程の中で大きな意味があったことを改めて知ることができた。
この著書を読むと米山氏の奮闘と多くの人々とのつながりの中で貴重な歴史資源が残されたことがわかる。「辛苦舐めた大平宿の市民運動との連携」「涙を呑んだ馬場屋敷」などその道は平坦ではなった。しかし、歴史を活かしたまちづくりが、今では当たり前に語られるようになったのも全国各地でのこのような取り組みがあったからこそだろう。さらにその範囲は、歴史的町並みから、鉄道文化財、鳴き砂、茅葺き(農村景観)まで拡がっている。
まさに、地域の遺産を地域の誇り「プライド・オブ・プレイス」として地域の人々が大切にしていこうという大きな流れが生まれてきているといえる。
とはいえ、まだまだ地域の貴重な遺産が評価されずに失われ、混乱した景観を生み出しているケースも多い。米山氏のように地域の人々と一緒に汗をかきながら楽しく、地域遺産を守り、まちづくりに生かす活動に少しでもかかわっていきたいと思う。
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