国の調査によれば、10年以内に消滅の可能性がある集落は全国で423箇所あり、いずれ消滅すると言われる集落を含めると2643箇所である。しかし、過疎地の集落は約6万(国土交通省調べ)箇所あると言われており、集落全体の4%となる。しかし、本格的に人口減少した数十年後には、かなりの集落が消滅という事態に直面すると予測される。そんな中、農村集落に対して、「撤退の農村計画」と少し過激ではないかと思えるタイトルに惹かれて本書を手に取った。
本書では、集落に対して、撤退という選択肢を与え、その方法として集団移転を提案している。集団移転の時期、どこへの移転が効果的か、移転後の生活などについて書かれ、そして、移転した後の集落の土地の活用方法についても提案している。集団移転のメリットとして、コミュニティの持続を上げている。集落消滅が迫った時の大きな問題となるのが、残っている人の孤立と生活困難になるという点であるという。親族を頼れる高齢者はよいが、1人で老人ホームや特養などへ移った場合は、それまでのコミュニティがとぎれてしまう。そのリスクを、集団移転でなくすというものである。阪神・淡路大震災の際には、被災者が仮設住宅に移り住んだが、コミュニティ形成されない状態であったため、被災者の孤独死が問題となっている。その教訓を踏まえ、中越地震では、コミュニティ入居が実現され、一定の成果を納めたようである。また、阿久根市の本之牟礼地区では、1989年に集落の集団移転が行われ、住民の評価は悪くないとのことである。確かに、生活してきたコミュニティが移転後も維持
できれば、1人暮らしの高齢者などは互いを支い合いながら、移転後も生活することができ魅力に感じる。しかし、移転先の周辺住民とのコミュニティ形成が消極的になるのではないかと感じる。
また、撤退した後の集落においての問題点・管理方法は、今後の問題点として、集落から個々に移転が発生した場合、土地や家屋を売却せずに都市部に移転するケースが増え、連絡が取れなくなる可能性があり、放棄地、所有者不明の土地などが増加するとされている。そのために、放置された土地を遊休地として公告することで、農地として利用するとのことである。また、行政だけに頼るのではなく、経済的な仕組みとして粗放農業を提案し、放牧によって人件費を抑え、また、ブランド化などを上げているが、集落移転とのその後の管理をどのように切り離し、また、プロモーションしていくかが非常に困難ではないかと感じた。
本書は、すでに始まりつつある集落の消滅に対して、すべての集落を維持するのでなく、集落の状況に応じて、ある時期の選択肢として集落の集団移転の可能性を示している。今後、本格化していく高齢化、人口減少に対して、集落に対する施策も重要だが、個々や集団に対して都心で受け入れる体制も並行して考える必要がある。
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