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建物が残った 近代建築の保存と転生/磯崎新編著

岩波書店/1998.3.18発行

 磯崎新の初期代表作「大分県立大分図書館」の保存と再生をめぐる顛末記。旧図書館が蔵書数の増加で手狭になったことから、移転・新築を計画。新図書館は1995年に大分県立豊の国情報ライブラリーとして開館(設計:磯崎新)しているが、旧図書館をめぐって、地元で保存運動が展開。最終的には、大分市が県から土地と建物の無償貸与を受け、1998年2月に市民ギャラリー「大分市民アートプラザ」として再生。この再生計画も磯崎氏が担当した。

 歴史的建築物の保存と再生に対する関心が高まり、各地で様々な保存・再生運動が取り組まれているが、その対象となっているのは、せいぜい明治や昭和初期の近代建築物までで、戦後の建物については高度成長期に乱造されたこともあり、スクラップアンドビルドが進んでいるという状況だ。それはコンペなどで設計された建物も例外ではなく、10年もしないうちに壊されてしまったものもある。

 この旧大分県立大分図書館も同じような運命をたどるところであった。その保存についての市民の意向は、保存がやや多いものの取り壊しという意見も多かったという。磯崎氏の代表作と聞くとそれだけでも保存の価値があると思ってしまうが、市民は必ずしもそのように思っていなかったということに驚いた。それが保存・再生に結びついたのは、様々な条件が重なったことがあり、特殊事例ともいえそうだ。しかし、保存・再生された事実は、これから前後の建築物の保存を考えて行く上で大きな力になることは間違いないだろう。

 旧図書館の設計を若い磯崎氏が担当した裏話も興味深い。大分という土地が磯崎氏を育てたともいえるだろう。アートプラザの一角に設けられた磯崎新建築展示室を訪れ、磯崎氏の軌跡にふれてみたいと思う。

(1998.9.11/石田)