私は毎日たくさんの水を使っている。朝起きて顔を洗い、お茶を淹れて飲み、食器を洗い、トイレの水を流し、風呂に入る。これらに使う水は、すべて水道の蛇口をひねって得るのが当然だと思っていた。しかしこの本を読むと、それが近年発達した生活スタイルであるということがわかる。
この本には、郡上八幡の工夫に満ちた水利用システムに着目した著者達の長年にわたる研究成果がまとめられている。郡上八幡の人々は、利用目的に応じて様々な種類の水を使い分けてきた。地区によって、大小の川の水、山水、湧き水、井戸水、用水路の水のうち、利用できるものを組み合わせて、飲み水や洗濯、観賞用の池の水、防火用水などとして必要に応じて活用してきた。井戸やカワド(用水路に設けられた洗い場)、湧き水を溜める水屋は、個人で利用することも、共有で利用することもある。共有で利用する場合は利用組合がつくられ、清掃などの管理を当番を決めて行った。人々は、水を有効に活用するために様々な工夫を凝らし、近所同士で協力しながら独自の水利用システムをつくりあげてきた。著者は、このように水が媒体となって「人と人」「環境と人」とを結びつける環境全体を指して「水縁空間」と名付けた。
しかし、上水道の発達は生活に便利さをもたらす一方で、このような水縁空間を激減させてしまった。共同井戸やカワドは使われる機会が減り、近隣同士の協力体制はあまり必要でなくなってきた。水使用量は大幅に増える一方で、水を大切に、きれいに使おうという気持ちは薄らぎ、河川や水路の汚染が進んだ。
著者達は、調査結果をもとに住民や行政と協議を重ね、貴重な水利用システムの保全を訴え、水浄化や水利用の提案を行ってきた。その結果町は動き、水路美化の改修工事や水のポケットパークの整備など、「水」を活かしたまちづくりが取り組まれている。
この本を読んで、創意工夫に満ちた水の使い方に驚くとともに、蛇口をひねれば水がでてくるものと思いこみ、水の利用にほとんど関心を払っていなかった自分を反省した。しかし、利用者がきれいな水の大切さを意識し、良好な水環境づくりに注意を払うことがなければ、水環境はどんどん悪くなってしまう。都市生活の中では、川の水や井戸水を使うことはないが、自分の使っている水が来た道、そしてこれから行く道のことを考えながら、水を大切にしていきたいと思う。
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