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「新・観光立国論」/デービッド・アトキンソン著○
 東洋経済新報社/2015年6月18日発行

 本書は、金融アナリストとして世界で活躍し、その後日本に移住して数十年、現在は政府観光局の特別顧問も務める著者が日本の観光の在り方について、アナリストの視点から描いた提言書である。非常に話題になった本なので読んだ方も多いかもしれない。 「2030年までに外国人観光客8,200万人を目指せ」、これは政府が掲げる目標3,000万人(執筆当時の数値、現在は6,000万人に上方修正されている)よりも大幅に高い数値だ。それぐらい日本にはポテンシャルがあると著者は言う。これからの日本は人口減少が進み、明らかにかつてのような経済成長が見込めない。その中で、今後GDPを大きく成長させるにはどうすればいいか、それは観光を産業化した「観光立国」しかないと説く。なぜなら観光の4条件である気候、自然、文化、食事に日本は非常に恵まれている稀有な国だからだという。そのポテンシャルは世界的にも非常に高いのだ。
 しかし、日本の観光への意識はまだまだ甘いと深く深く釘を刺されてしまう。まだまだ何が資源が分かっていない、何を発信すればいいのか分かっていない、来てもらうために何を整備すればいいのか分かっていない、・・・。玄関口となる空港の対応や公共交通機関の営業時間、文化財等の解説、案内ガイド、街並みの整備などなど具体的な例を示しながら、論理的にダメ出しがなされている。あのオリンピック誘致で有名になった「おもてなし」すら、それはアピールの仕方が違うと否定している。
 では、どうするのか。やはりアナリストとして、マーケティングが基本になるのだ。外国人観光客とひとくくりに捉えがちだが、当然一人ひとり好みは違うわけである。アジア系と欧米系では違うというのは何となく分かるが、そんなレベルではなく、どの国のどの年齢層といった細かいセグメントまでターゲットを明確にするのだ。そしてそこに向けた行動を
とっていくべきであり、さらにはお客様として相手の立場に立って考えることが基本だという。こういう点がまだまだ徹底されていない、逆に言うと伸びしろがある。
 本書はこのような大局的な話だけではなく、現場に役立つ具体的な解決策も多く提案されている。ここでは書かないが、ひとつひとつ納得してしまうので、ぜひ参考にしてもらいたい。本書の続編である「新・観光立国論【実践編】 世界一訪れたい日本のつくりかた」(2017年発行)で刊行され、より具体的な解説がまとめられているので、併せて読んでもらえるといいだろう。
 最後に「2020年東京オリンピックが審判の日」になるという。オリンピック目当てに来た人がそれ以外で観光目的で再度来日したくなるか、その判断を下す日ということである。もうあと数年、日本、そして我が街・名古屋はどういう評価を受けるのだろうか。

  (2018.2.19/櫻井高志)