「せんだいメディアテーク(以下 SMT)」は2001年に仙台市にオープンした図書館やギャラリー、オーディオ・ビジュアルセンター等の機能をもつ公共文化施設である。メディアテークとはフランス語で「メディアを収める棚」という意味で、新しい公共施設の創造を目的に付けられた名称である。この施設は1994年に行われた設計コンペにより設計者、伊藤豊雄を選定しているが、そこで建築家に投げかけられた問いは「メディアテークとは何か?」であった。それは、冒頭で述べた図書館やギャラリー等の機能を解体、統合、再編して新たな施設タイプを提案してほしい、ということであった。
今回紹介する本は、この問い対して、建築家をはじめ、研究者、ジャーナリスト、市職員などが6年がかりで行ってきたコンセプトづくりの成果をまとめたものである。ひとつの建築に関して、空間やデザイン論ではなくコンセプトが本として出版されることは非常に珍しいことである。それは、施設を建設するにあたり、そのコンセプトづくりに多大な労力をかけられる機会が非常に少ないからである。SMTでは、設計者が決まるとすぐに、メディアテーク・プロジェクト検討委員会が設置され、コンセプトづくりが開始される。その内容はインターネットや新聞を通じて常に公開され、さらにプレイベントとしてシンポジウムやワークショップが施設完成前に20回以上も行われることとなる。設計者の伊藤豊雄は完成後「メディアテークはすでにずっと前から使われているようにすら思える。」と語っている。
「メディアテークとは何か?」という問いは、「使うとは何か?」「プロジェクトとは何か?」「ワークショップとは何か?」「公共施設とは何か?」といった問いを含んでいる。本書ではこうした根本的な問いに、ひとつひとつ答えていきながら、ソフトからハードまでのコンセプトが積み重なって現実のメディアテークという施設になっていくプロセスが非常にうまく書かれている。ことづくりからものづくりまでに興味を持っている方には、お勧めする一冊である。
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