本書は、環境先進国ニュージーランド(以下、NZ)の生物多様性保全につながるまちづくりの取組みを紹介するものである。本書を読んだ第一印象は、NZと日本では生物多様性に対する意識の高さがまったく違うということである。その意識の高さを裏付ける取組みとして次のようなまちづくり事例が詳しく紹介されている。
- 国内すべての公園に対して、最近日本でも話題になりつつあるが、パークマネジメントプランの策定が義務付けられ、地域コミュニティとの協働による策定とその後の利活用・管理運営が行われている。
- 国内各地に環境裁判所が設置され、環境と開発の訴訟を専門的に扱っている。例えば、国のエネルギー政策に則って整備しようとした大規模な風力発電基地が、地域の自然景観を破壊するということで、待ったをかけられたこともあるそうだ。
- 各家庭のガーデニングから公園などのランドスケープに至るまで、単に緑があればいいのではなく、もともと地域にあった自生種植物による緑化が奨励され、地域固有の自然・生態系を積極的に再生しようとしている。
自然環境保全を進める上で、地域との協働や対話を非常に重視しているということと、その対話の中で、もともとの地域固有の自然を見直し、再生させようという動きが活発に行われているということが特徴的だと感じた。NZはもともと、先住民マオリ族との共生の歴史が長く、共生するために地域社会における合意形成と協働が根付きいてきたという背景があったそうだ。同時に、その土地本来の自然を大切にしてきたマオリの自然観を尊重することが、生物多様性を見直す動きにつながったということもあるということだ。
そのようなNZ特優の背景はあるにしろ、結果として、市民の身近なところにまで生物多様性を意識した取組みが浸透し、国民のアイデンティティの形成にまで影響を与えているということである。国レベルでそこまで取組みが進み、深まっている点は日本と比較しても、とても興味深く、本書からまたNZから学ぶべき点は多いのではないかと感じた。以上が感想である。
一方、日本ではどうか。生物多様性は大きな社会的テーマとなってきてはいるが、まちづくりの分野で強く語られることはまだまだ少ない。しかし世界からは生物多様性ホットスポットとして高く評価されるとともに、それを育んできた里山の知恵も貴重な資源といえる。日本のまちづくりにはまだそれらが十分に活かされていないのではないだろうか、NZを見習い、“生物多様性まちづくり”にも今後より注力しきたいものである。 |
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