最近、日本の経済再生のキーワードとして「ものづくり」が見直されるようになっている。中でも世界シェアでトップレベルにある自動車産業は、カンバン方式、カイゼンなど日本発の生産方式がグローバルスタンダードとなっている。本書では、21世紀の日本経済を考える上で、20世紀後半の自動車産業の能力構築競争の歴史に学ぶことの必要性を説いている。
企業の競争力には、顧客が直接観察・評価できる製品の価格・内容・納期など表層の競争力と、顧客が直接評価しない生産性や生産リードタイムなど深層の競争力とがある。能力構築競争とは、この深層の競争力で他社に勝ろうと努力することである。能力構築競争のうち、製品を構成する部品間の連結を考える製品アーキテクチャが重要で、既存の部品や設備の寄せ集めでも機能を実現できる「組み合わせ(モジュール)型」と、部品や設備をきめ細かく相互調整して機能を実現する「擦り合わせ(インテグラル)型」とがある。20世紀後半の日本の自動車産業では、「擦り合わせてつくりこむ」現場の競争力があったからこそ、バブル期にも踊らず深層の力を蓄え、環境やITなどの面で製品化が進み、国際競争力を高めている。
名古屋圏では産業観光への取り組みが盛んであるが、その背景として食品、窯業から自動車、機械、航空宇宙産業などの先端産業まで日本を代表する企業が集積し、「ものづくり」で発展し続けている歴史の視点が欠かせない。本書はそのベースとなる日本の製造業の発展を学ぶことができる。
一方、まちづくりの現場に転じてみれば、人や地域の特性を勘案しながら相互調整して「擦り合わせてつくりこむ」ことが行われてきた事例ほど成功していると思われる。「擦り合わせ型」のものづくりの精神は、まちづくりにも通じるものがある。
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