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ニッポン人には、日本が足りない。/藤ジニー著

日本文芸社

 2003年6月、我が社恒例の社員旅行で、山形県の銀山温泉を訪れた。古い町並みが大好きな私は、以前テレビで銀山の風景を観て以来、ずっと行きたいと思い続けていたので念願がかなえられた形である。実際に行ってみると、思ったよりも小じんまりとして、アットホームな雰囲気の温泉街であった。夜は、川沿いに並ぶ3階建ての木造旅館の数々が美しくライトアップされて見事である。本書の著者である旅館「藤屋」の女将ジニーさんも川沿いを歩いているのをよくお見かけしたが、公共広告機構のCM効果ですっかり「銀山名物」になっており、観光客に呼び止められては記念写真を一緒に撮ってあげたりしていた。

 「藤屋」は予約で埋まっていたので、私達は別の旅館に泊まったのだが、この本を読むと、今度行く機会があったら是非藤屋に泊まってみたいという気持ちになる。外国人である彼女がなぜ銀山で女将をすることになったのか、今日に至るまでの間にどんな苦労をし、どう乗り越えてきたのか、そして今は女将という仕事に誇りを持って取り組んでいるのだということがわかる。特に、CMでは和服姿で華麗に微笑む彼女が、元はごく普通のアメリカ人であり、旅館に嫁入りして以来、日本の田舎の古い慣習と激しくぶつかり合ってきたという事実には驚いた。彼女は藤屋にアメリカ的な合理的経営手法を取り入れ、自分が落ち着いた気持ちでいられるような環境づくりに取り組んできた。最も印象的なのは、旅館の近くの一戸建てに移り住むことになったとき、外装も内装も「徹底的に」アメリカ風にリフォームしたということである。家具類はまとめてアメリカで購入してコンテナで運び、キッチンはホームパーティーが開けるオープンスタイル…。そういったアメリカ的なものが、彼女の心を和ませるために必要だったのである。

 テレビで観た和服姿の印象が強くて、ジニーさんは日本の文化・慣習にすっかり溶け込んでしまったのかと思っていたが、そうではなかった。夫の両親との同居や、家族経営で1日中働きづめの生活など、違和感を覚えるような古い慣習に積極的に異議を唱え、改革してきた。その効果は藤屋のみならず銀山温泉全体に及んでいるようだ。旅館単位ではなく、街全体でお客様を迎える気運が高まってきたと述べられているくだりがあるが、そのことなどはまさに"ジニー効果"であると言えよう。

 気取らない語り口で、読んでいると彼女の人柄が伝わってくる。同じ女性として、憧れる存在である。
(2004.3.8/伊藤彩子)