「開発」とは何か、「グローバリゼーション」とは何か、この本を読んで考えさせられた。
本書の舞台は、インドの北部、チベットとの国境にあるラダックという地域である。このラダックは、ヒマラヤ山脈のふもとの山々に囲まれた高地にあり、何世紀もの間、外界の影響をほとんど受けることなく自給自足的な生活を送り、かつ自律的な共同体として社会の営みを続けてきていた。しかし、70年代以降このラダックにも西洋近代化・貨幣経済・物質文明の波が押し寄せ、人々の生活・社会は一変する。それまでの伝統が破壊され、人々の価値観、生活スタイル、そして社会構造などあらゆるものがあまりにも大きくそして劇的に変わっていった。著者は研究者としてこのラダックに入り、そこでの生活や人々とのふれあいを通じて、そこで起こった変化の前後の過程を地域の内側、そして人々の内面から生々しく伝え、分析している。
グローバリゼーションと地域性は対立する流れとしてよく取り上げられるが、著者はこのグローバリゼーションによる変化=破壊を一概に悪であると悲観的に受け止めているのではない。その中でも開発の善悪を、地球への環境的影響や文化・コミュニティなどへの影響等広い視点から分析し、今自分たちに何が起きているのかという全体像を理解することの重要性を第一に示している。そのうえで、地域独特の伝統文化を壊すことのない有用な開発を探り、それを融合させることで、新たな持続可能な開発と文化形成の方向性を示している。ラダックでは、人々とそれを実践しあい、圧倒的な開発の圧力によって、それまでの地域文化を自己否定する傾向にあったラダックの人々に、その価値を再認識させ、自尊心を取り戻させるとともに、地域にも自立性を取り戻させつつある。
地域文化の独自性や地域それぞれの多様性を重視し、同時に自然の秩序の中で自分たちの位置、お互いの関連性、地球との関連性を認識することによって、地域のアイデンティティを再形成する試みは、本書ではラダックを例に取り上げているが、世界の各地域共通の課題であるといえる。日本でも同様であり、まちづくりにおいても同様のことがいえる。Think Globally,Act Locally、まさにその通りなのだが、本書を読んでその重要性を改めて認識させられた。 |