「夢のマイホーム」という言葉があるように、賃貸よりも戸建てや分譲マンションの方に価値を見出す人の方が多いと思う。私自身も持家指向があるし、ごく普通の考えであると思っていた。しかし、多くの人が住宅所有を目指す持家社会は自然現象ではなく、政策や制度からなる住宅システムによってつくられたものであるというのが著者の考えである。
戦前は民営借家が中心だったが、戦後の都市部の住宅不足を解消するために制定された地代家賃統制令をきっかけに持家社会に転換していったそうだ。その後、住宅金融公庫法・公営住宅法・日本住宅公団法などを制定し、住宅建設を経済のエンジンとみなす経済主義の方針のもと、中間層の持家取得を支援し、借家よりも持家の方が人々にとって有利になる状況を政府はつくりだしていった。また、企業も労働力の確保や社員の帰属意識の向上、土地資産の担保力を使った資本調達などのために社宅を建設したり、家賃補助をするなどして持家への住み替えを支援したりしていった。このような状況の中、人々は結婚し男性が稼ぎ主となる「標準世帯」に帰属することで社会保障制度と税制の優遇を受けながら、有利な方の持家取得を選択していったのである。
このように持家社会が住宅システムによって形成されたものであっても、人口が増え、経済が成長し、中間層が増え、住宅システムが持家所有を支援するというサイクルが継続可能な間は、人々を住宅条件が不利な状況から有利な状況へ導くことができた。しかし、高度経済成長の終焉、バブル経済と土地神話の崩壊、経済停滞、少子高齢化、未婚と離婚の増大などにより、従来型の「標準世帯」以外の世帯が増え、また住宅条件が有利な状況に移行することが難しくなっていったのである。社会が大きく変化する中、持家取得や「標準世帯」が有利な住宅システムであり続けるために、住宅に関する支援を受けることが必要な家族を形成しない人や雇用の不安定な人は、低い住宅条件の境遇のまま固定されてしまっているのである。
このような住宅システムの変遷や現状の問題点が、豊富な統計データや海外における住宅システムの世界的な動きなどとともに整理されている。そして、持家社会が自然現象ではなく住宅システムによってつくられたものであれば、住宅システムを変えることで住宅条件の不利な立場にいる人々の境遇を改善することが可能であると著者は考えている。この本の中で深くは取り上げられていなかったものの、住宅ローンの支払いが不能になった場合、延滞金利の高さによって住宅を手放すだけでなく、多額の借金まで背負うことになることもあるそうだ。聞きなれない専門用語も多く、新書としては難解な内容ではあるが、持家を取得しようと思っている方には時間をかけてじっくりと読んでいただきたい一冊である。 |