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郊外の20世紀 テーマを追い求めた住宅地/角野幸博著

学芸出版社/2000.3.10

 高度成長期の住宅供給は郊外開発とともにあった。それが右肩上がり経済の終焉、人口減少社会の到来を迎えて郊外開発から既成市街地整備へと転換していこうとしている。その中では短絡的に郊外開発を「悪」として語られる場面もみうけられる。はたして郊外住宅地は今日の私たちにとってどんな意味をもっているのだろうか。

 本書では関西を中心に明治末期以降の郊外住宅地開発の歴史を紹介している。戦前までの郊外住宅地開発は、都会の喧噪から離れて、理想の環境のもとでくらそうという一種のユートピア思想に支えられたものだったという。それが戦後の高度成長期には、住宅が商品化し、成功のあかしとして住まいを求めるようになり、その過程で、郊外に庭付き一戸建てこそが理想の住まいという感覚が広まったという。
 主に私鉄によって開発され、今も良好な環境を有する住宅地を形成しているという歴史は、名古屋にあてはめるとどうなのだろう、という興味もわいてくる。戦後の郊外の拡大と浸食、郊外の消滅、超郊外へという歴史もわかりやすく解説してくれている。
 また、郊外住宅地をテーマタウンという視点から分析しているのも興味深い。テーマタウンの功罪を指摘しながら、新しいテーマタウンへの期待が述べられている。「多自然居住型郊外住宅地」「海浜居住をテーマとした住宅地」「環境共生というテーマをわかりやすく具体的に展開した住宅地」の3つである。

 住まいの選択肢が多様化している。郊外の戸建住宅は決して「住み替えすごろく」のあがりではなくなった。都心居住に注目が集まる中で郊外居住をどうとらえたらいいのだろう。21世紀に我々はどこに住むべきか、いろいろな示唆を与えてくれるのが本書である。 

(2000.7.18/石田富男)