著者は大学卒業後、編集製作会社に勤務し、全国の伝統工芸や手工芸を取材し、1995年に長編国際謀略小説「龍の契り」でデビューと共に、直木賞候補になった新進の小説家、服部真澄氏。夫婦で東京平和島での骨董市に出掛けるところから、はじまり、ご主人のユーモラスな語りの語りをとって、家ができるまでをおもしろおかしく、紹介している。「骨董市で家を買う」というよりは、骨董市で地方の民家移築を斡旋している人物を見つけ、彼の手引きにより、東京の品川に民家を移築するというのが、ことの次第である。
古民家の移築は、レストランや美術館などではたまに見受けるが、個人住宅にしてしまうとは驚いたが、予算の話もこと細かに紹介されているため、かなり、現実的に考えられる。おもしろおかしく書きながらも、民家の長所、短所。木造建築の重要性、建築技術の将来が危ぶまれていること、そして木材の貴重性、現代建築への活かし方など、われわれが日本における住宅について考えなければならないトピックスがふんだんに盛り込まれている。
当初は坪当たり70万円の計算であったのが、移築再生に不慣れなスタッフのためもあり、木材の見積もりの大幅な狂い、建具の新調(木枠の窓など既製品(サッシ)以外は莫大な費用がかかる)などから、結果的には坪単価90万円(60坪なので、5〜6千万円したということだろうか)かかってしまったとのこと。職人気質の施主、大工、建築家が集まったのが功を奏して(?)「せっかくだから良い物にしよう」とそこまで、こだわってしまったようだが、普通の収入の人には、やはり高嶺の花かなあと思う。日本の多湿な気候に適しているはずの木枠の窓では住宅金融公庫を利用できないなど、民家再生には不利な規制が多々あるようで、こういった、制度の見直しによって、効率的な道が開けるのかもしれないと思った。
(1999.3.3/竹内 郁) |