「サンライフ」という名称を目にしたことはあるだろうか。最近では、名古屋市営地下鉄で一編成の車内広告全てをスタッフ募集広告でジャックした社会福祉法人である。サンライフは、名古屋市内に本部を置き、昭和63年に愛知県内で最初の施設を開設して以来、これまでに愛知県内をはじめ岐阜県、長野県で大小合わせて120ヶ所以上の事業所を展開している成長企業である。本書は、そのサンライフの理事長が今の介護事業の実態と今後の提言等を記したものである。
本書は、理事長が事業を始めた頃から、まもなく向かえる超高齢化社会でも介護事業で安定経営できる方策は何か、早い段階から経験や先見性を基に日々研究し、独自の介護事業のビジネスモデルを構築してきた経緯や、その計画を具体化するために、国内外の施設を訪問し情報収集に努め、綿密なデータを基に研究を重ね効率的な施設計画、スタッフ配置計画、介護方針等の運営計画をたて事業展開をしてきた取組みなどが記されている。
今のサンライフの成功の裏には、そうした理事長の効率的な経営戦略によるところが大きいが、その中で社会福祉法人の使命である要介護者への介護サービスと自立支援策の充実、スタッフの労働環境の改善とやりがいの創出、さらには施設が立地する地域社会への貢献にも目を向けた、総合的な事業戦略の成果であることが読み取れる。
サンライフは、その前進がアーバンデザインを目的に古い建物の活用をテーマにした研究機関で、当時から住まいやそこで暮らす高齢者の住まい方や意識の研究に携わり、その結果、高齢者施設事業に取り組むに至った経緯が紹介されているが、そうした都市や建築の分野で研究されてきたこともあり、現在のサンライフは、特養を中心とした滞在型施設、クリニック、デイケア、高齢者向け賃貸住宅などの福祉系用途とともに、一般向(世帯用、女性専用)賃貸住宅や飲食店を併設した多世代コミュニティが生まれる複合型施設を展開している。さらにその立地は都心部、特に駅前に着目し展開している。施設の利便性や周辺環境がいいと入所者家族も見舞に訪れやすく、スタッフ募集の際も多くの応募があり優秀な人材を確保しやすい。また、離職率低下につながると考えられている。
著者は、今後も介護ビジネスを伸ばしていくためには、自らの施設を拠点とした地域のまちおこしや少子化対策としての保育所整備、高齢者の雇用機会となる農業分野の発展など、介護事業の枠組みを超えた様々な分野にも目を向けていくことの必要性を唱えている。
我々の都市計画、まちづくりの分野においても、まさに人口減少、少子高齢化社会への対応が求められている今日、介護の実態を把握し介護という切り口でまちづくりの新たな可能性を探るうえでも、非常に興味深い内容であった。 |