私は自分が生活し住んでいる場所、そしてまちなみが美しく魅力的になってほしいと常日頃願っているが、現実はそうはいかず、そういった素晴らしいまちなみに出会う機会は多くないと感じている。そして私と似たように、時にヨーロッパの美しいまちなみと比較などして「なぜ日本のまちなみは貧しいのだろうか」と考える人も少なくはないのではないだろうか。もし、私と同じような感想を持つ方がいれば、ぜひ本書を手に取ってもらいたい。その謎が少しでも解けるのではないだろうか。
イタリア人の著者いわく、現代の日本のまちは「不動産業者や金融機関、政治家たちの利益のためにつくられた」美を見つけ出すことが難しいまちであるとのことで、本書の中で、我々日本人の住宅や景観形成に対する考え方や価値観などについて批判を含んだ見解が示されている。しかし、イタリアと日本との文化の違いについて比較を根拠に分かりやすい説明がなされており、なるほど納得できると感じる。また、日本人の友人との間で取り交わされる会話形式のやりとりはテンポ良く楽しく、すんなり読み進むことができる。
著者は、溝口健二や小津安二郎の映画の中に見つけた詩的で魅惑的な情景や、何気ない日本の庶民の生活風景の中にある質素・簡素であるが美しい風景に魅了され、それをきっかけに日本に永住しようと決意したという日本通であり、本書には我々日本人が本来持っているはずの優れた美的感覚を取り戻し、日本社会が将来よりよい生活環境、住まいを構築し、人々が豊かな生活を送れるようになってほしいという願いが込められている。賛否両論ある内容も含まれると思うが「客観的に外国人から見た日本の姿」として素直に耳を傾けることもあってよいと思う。日本のまちづくりの是非についてはさておいても、単にイタリアの歴史文化を知ることができるという点からもお勧めできる1冊である。 |