「一箱古本市」というイベントをご存知だろうか? 店舗の軒先を借りて、本好きな人が一箱ずつ古本を持ち寄って売るイベントである。著者らが東京の谷中・根津・千駄木エリア(通称:屋根千)で、「不忍ブックストリートの一箱古本市」を2005年に開始して以来、その地域や主催者によって大小さまざまな「一箱古本市」が全国各地で展開されている。この本では、「一箱古本市」が誕生した経緯から始まり、全国に広がった数多くのブックイベントが丁寧に紹介されている。古書店などのプロによって大量の本が並べられて販売される旧来の古本市とは異なり、本好きであれば素人でも「本屋さんごっこ」を楽しめるため、「本」の仕事に携わる人々を中核にし、一般の本好きの人々が多く参加している点がこれらのイベントに共通する大きな特徴である。
また、「読書離れ」や「出版危機」を叫ぶのではなく、もっと日常的な場所から本との付き合い方を見直してみたいというのがこの本を書くきっかけであり、著者やブックイベントに関わる人々の考えが随所に表れている。本が売れなくなったのではなく、古本屋や新古書店で購入したり、図書館や友人から借りたりと本の出会い方が多様になったのであり、「一箱古本市」もその多様なルートのひとつであるということ。インターネットの発達によって紙の本が不要になるのではという過去の議論と現実は大きく異なり、巨大オンラインショップや個人間オークションなどインターネットは紙の本を手に入れるための最大のツールになっていること。また、本を買って読むだけではなく、感想をブログで発信・共有したり、フリーペーパーを発行したりすることで本と遊んでいる「能動的な読者」もいるということ。このような読書や読者の変化を背景に、「一箱古本市」などのブックイベントが全国へ広がっていったのである。
本著にも全国の事例のひとつとして紹介されているが、昨年名古屋で「一箱古本市」が初めて開催された。「BOOKMARK NAGOYA」という本に関する様々なイベントのひとつとして、2009年3月21日(土)、22日(日)の2日間、名古屋市西区の円頓寺商店街で行われた「一箱古本市」は、商店街に点在する空き店舗の前に約100箱の小さな本屋さんが並ぶことになった。私が訪れた日曜日はあいにくの雨模様にも関わらず、アーケードという好条件もあり多くのお客さんで賑わい、単に本を売買するだけでなく出店者とお客さんが会話を楽しんでいる光景をいたるところで見ることができた。並んでいる箱だけに注目しても、販売している本に合わせてディスプレイにこだわっているものもあれば、自宅で眠っている本を処分するための段ボール箱など、力の入れ具合も様々で、のんびり散歩しながら覗ける気軽さが良かった。また、商店街の人たちは空き店舗の前の小さな本屋がにぎわっていることだけでなく、来訪者がイベントを楽しんでいたことを喜び、次回の開催はいつかと早速話していたことも印象に残っている。参加はできなかったが、「一箱古本市」以外にもトークやライブなどのイベントが市内各地で行われており、満員になるものも多かったようである。
本著に、名古屋では2010年の開催に向けて動き出していると記載があった。ウェブで確認すると、2010年3月20日(土)に円頓寺商店街で、4月3日(土)に覚王山日泰寺参道で「一箱古本市」の開催を予定しているようだ。本著を読むことはもちろんお勧めするが、ぜひ一度「一箱古本市」も歩いていただきたいものである。
○「BOOKMARK NAGOYA 2010」
http://www.bookmark-ngy.com/
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