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「誤解だらけの電力問題」/竹内純子著   
株式会社ウェッジ/2014年4月30日発行

 東京電力の社員として10年以上も尾瀬の自然保護に携わり、福島原子力発電所事故の後に退職した著者の竹内氏には、電力会社と消費者のコミュニケーションが成立しなくなっている中で、その「通訳」ができればとの思いがあり、本著は元社員だからこそわかる電力問題の理想や現実が書かれているように思う。
 1部では、再生可能エネルギーで自給自足ができるという神話、ドイツのエネルギー政策がすべてうまくいっているという神話、そして電力会社が既得権益にしがみついているという神話について紹介されている。次の2部では、電気がどのように作られるのかといったエネルギー政策の基本が、そして第3部では今後の電力システムのあり方について、わかりやすく述べられている。原子力発電所事故を経験し、電気が「あるのが当たり前」ではなく「ないのが当たり前」の資源貧国の日本としてのエネルギー政策が今後どうあるべきかを、お題目ではない「国民的議論」でつくっていくべきで、そのためにまずは消費者自らがライフライン(生命線)である電気の作られ方に興味を持っていただきたいという著者の考えが伝わってきて、非常に共感できた。
 また、3部構成とは別に、著者の主観であるため違和感を持つ人もいるかもしれないが、あえて書いたという補論「電力システムと電力会社の体質論」はぜひ一読いただきたい。「供給本能」を中心とした電力会社社員の思考回路や「電力体質」といわれる独の気質には、それなりの経緯や必然性があったことが理解できる。
 汚染水の情報開示の失敗が続いていることに関し、その原因のひとつに世間が求める情報のスピードと正確性のバランスが今も実感できておらず、「チャレンジは失敗のもと」精神で、わからないことはとりあえず黙ってしまうからだと筆者は考えている。いたずらに神話を信じる、特定の考えだけを正しいとする、他から見ると不思議な企業体質になっているようなことは、電力業界だけに限らず、全ての業界や分野においても起こり得ることであると思う。「コミュニケーションほど、言うは易く行うは難しいことはありません。組織や仕組みを作ればいいわけではなく、人が地道にかかわり続けなければなりません。長い時間がかかります。」という一節はまさにその通りで、常に自分の頭で考え、コミュニケーションしながら、まちづくりの課題解決を図っていきたいと改めて思わせてくれる一冊であった。

(2014.9.16/山崎 崇)