ヨーロッパのまちなみが綺麗だと言われる要因を考えると、趣のある古い建物、綺麗に並んだスカイライン、ゆったりとした歩道などが思い浮かぶが、電柱や電線がないこともの一つではないかと思う。本書をみつけたときに、ふと、以前ヨーロッパを旅行したときにそう感じたことを思い出し読んでみることにした。
本書は、電線類地中化の実現方法という副題があるように、どうすれば電線類地中化が実現されるのか、国内外の事例を示しながら課題となる点や学ぶべき点を記述している。同時に、日本での地中化がそれほど進行していないこと、まだ地中化の必要性が広く周知されておらず議論の対象になることが少ないことから、電線類地中化の素晴らしさ、地中化の必要性についても説いている。確かに、まちを見た時に景観として電柱や電線が気になる人がいたとしても、その中で地中化を強く訴える人はどれくらいいるだろうか。
一般的には、電柱や電線が空を覆っていてもごく当たり前の風景として捉えられ、景観を考えたときに初めて問題視される。それも、景観を考えるのは行政や専門家、企業、景観保全等に関わる市民や団体などで、実際のところはわからないが、市民から電柱・電線が景観的に気になるといった訴えがあったとはあまり聞かない。日本では、電柱や電線のある風景が当たり前で、別の視点からすると、電線や電柱のある風景が日本らしい風景なのかもしれない。その点について筆者は、日本人のまちの景観に対する意識として、「自分の利益や目先の利益を最優先する点」を指摘している。確かに、目先の利益を考えると、景観という分野は後回しになってしまうのかもしれない。しかも、ごく当たり前の風景である電柱や電線の地中化となればなおさらであると思う。しかし、阪神・淡路大震災の時に電柱の倒壊により避難路が塞がれ、非難する人々の行く手を阻んで災害を増幅させた原因になったことから、地中化はただ単に景観だけの問題ではなく、安全なまちを実現する上でも重要だと著者は説いている。そういった点では、景観の観点からよりも、災害時の対策として市街地の住宅密集地など地中化が求められる場所から実施していくことが、日本で地中化を進める一つの方法とも考えられる。
ロンドンの無電柱率が100%、パリでは99.2%、ニューヨークでは72.1%(数値は1977年時点。本書より抜粋。)という状況を考えると、電柱や電線は、日本人の景観に対する意識の在り方とともに、ごっそりと取り残された課題のようにも感じられる。景観を考える際、これまでは建物のデザインや高さ、周辺の自然との調和などに目が向きがちであったが、これからは電柱や電線のある風景ない風景にも注視してみたいと思う。本書には地中化が実施された国内事例が写真とともにいくつか掲載されているので、実際にそのまちを歩いてみるのもよいかもしれない。 |