商業ビルや住宅が集まる街を歩いていて、不自然に斜めにカットされたビルや階段状のマンションなどを見かけて不思議に思ったことはないだろうか。構造上の安全や避難経路の確保、都市の計画的利用などのために、建築基準法を始めとした法律や規則(以下、法規)によって建築物は規制誘導されている。法規をかたくなに遵守したために逆に周囲から浮いてしまったような建築物を「超合法建築」と呼び、実際の写真だけでなく、斜線制限などを示す補助線を書きこんだイラストや法規解説を加え、整理しているのがこの図鑑である。
掲載されているひとつの事例を紹介したい。道路が狭く容積率の設定が高い地域で、さらに地価が高い場合には、前面道路の反対側の境界線から斜めに引かれた線を限度とする道路斜線制限ギリギリまで建てることが、土地を最大限活用するためのひとつの解であり、セオリーにもなる。そのため、斜めにカットされた建物が道路の両側に並ぶことも多く、道路境界線からの後退による緩和規定も加わることで斜面の位置が建物によって少しずつ異なり、渓谷を想像させる景観がつくられ、これを著者は「斜線渓谷」と名付けている。
さらに複雑な形状にカットされた建築物も存在し、「雪崩ビル」や「スフィンクス・ビル」といった独特の事例名称が付けられ紹介されている。斜線制限などでカットされた「彫刻系」以外にも、出窓などに着目した「突出系」など9つに分類された全77の紹介事例を見ていくうちに、全国一律の最低基準を定めるはずの法規によって個性的な建築や空間が生み出されているという不思議なメカニズムが理解できて、非常に興味深かった。この図鑑を手にとり、「はじめて法規を意識して街を見たときの、まるで眼鏡を掛け替えた瞬間のような驚き」を感じていただき、都市のあり方や景観に対する興味をさらに持っていただければ幸いである。
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