現在の位置:TOP>まちづくりを学ぼう>図書紹介>クリエイティブ都市論 WWW を検索 スペーシアサイト を検索

 

クリエイティブ都市論−創造性は居心地のよい場所を求める/リチャード・フロリダ著

ダイヤモンド社/2009年2月発行

 この本を手に取った理由は、職業的な習性もあるが、個人的な理由もあった。それは、本書が居住地選択の指南書でもあったからだ。年齢的にそろそろ終の棲家はどこがいいかを感じはじめていたからである。
 著者は「人生で最大の選択」は何かと問う。職業などの「何を」するか、結婚など「誰と」するかの2点はこれまで私も感じていたところだが、もうひとつ重要なのは「どこ」でするかという場所=居住地の選択だと説いている。幸福を得るためには居住地選択が如何に重要であるかを、様々な統計を用いて明らかにしているのだ。
 まず、世界は今「スパイキー」化しているという。スパイキーとはクギが飛び出ているように鋭い凹凸があるという意味だが、人口密度や経済活動、イノベーションの分布などのフィルターを通すと、世界は複数の都市が連合した20〜30の突出した「メガ地域」によってリードされている。名古屋もそのひとつに含まれている。今後の世界経済はさらにひと握りのスーパーメガ地域に集中化され、そこは一層発展するものの、それ以外の地域は市場で淘汰されて破綻するなどし、世界の格差はますます厳しくなると予想している。
 突出したメガ地域を分析すると、そこではある職種の専門化・高度化が進み、その要因としてクリエイティブな人々や企業が集積しているということも説明している。集積は相乗効果によりさらなるイノベーションと経済成長を生み、進化を加速させるというしくみだ。情報化が進み、高速交通が発達し移動の自由度が高まり、どこに住んでも同じだと考えられがちなグローバルな現在でも、「場所」は非常に重要なファクターだということである。言い換えれば、ビジネスの基本はフェイストゥフェイス、そしてクリエイティビティを高める=成長するためには人と人との物理的近さとその密なネットワークが重要だということを示している。
 経済活動での「場所」の重要性を示す一方、本書の後半では、著者らが全米で行った「居住地と幸福に関する調査」結果を結び付けながら、個人の居住地満足度を決定する要因も導き出している。その最大の要因のひとつが、クリエイティビティを発揮できる環境があるかどうかという点である。同時にその環境形成には都市の性格に「開放性」があるかどうかがもっとも大きく作用すると分析している。すなわち開放性とは多様性を引き出し、クリエイティビティを生み出すための鍵ということなのだ。つまり、「開放性」のある都市は、クリエイティブな人々が集積しやすく、経済的にも成長する可能性が高いということである。そのほかにも、居住者の性格や心理面からも都市を分析し、居住地選択のポイントを細かく導出している。これらは、今後のまちづくりの方向性を考える上で非常に示唆に富んでいると思える。
 最後に著者が導いた居住地選択のポイントを紹介する。全部で5つ、優先順位の“低い”順に、D雇用などの「経済的機会」、C教育やインフラといった「基本的サービス」、B政治や経済などの「リーダーシップ」、A次に自分との「価値観」の一致、@最後に心躍らされる「美的感覚や活気」となっている。最上位に美的感覚というのが、画期的である。これ、すなわち開放性や多様性あればこそ生まれる要素であり、クリエイティビティの集積を裏付けるポイントとなっているのだ。
 本書は都市論としても勿論、引越しガイドとしても、役に立つ一冊である。

(2009.9.29/櫻井高志)