社会変革の主体的な担い手となり、事業によって社会の課題を解決する「市民起業家」や「社会的起業家(ソーシャル・アントレプレナー)」とは何かと興味を持つ中、本書を手に取った。本書では、イギリスを始めとした欧米における「市民起業家」たちによる25の活動事例が紹介されている。最初の見開きでは活動風景の写真や「市民起業家」のメッセージ、活動成果の数値データ、次の見開きでは活動概要と系統図、最後の見開きでは影響や学びたい点、類似事例などというように、1事例が各6ページで紹介されている。
教会を保健センターと地域サービス事業の拠点に変えた牧師、閉鎖計画を機に患者の社会復帰の実践と公共スペースへ転換をした精神科病院、クリーン技術を活用し住宅地に溶け込むごみ焼却施設、大都市よりも速いブロードバンド網を構築した農村など、どれも魅力的な活動である。
「政府、地域の公共機関、民間、第3セクターのどの主体も、単独では、市民起業家が立ち上がり、成功するための材料を揃えることはできない」、「どんな成功も、まずは『いかなる組織にも単独でその地域の本当の市民起業家になれるだけの能力は備わっていない』という事実を認めることから始まります」という2つの文章が、印象的であった。「市民起業家」のアイデアや情熱はもちろん必要ではあるが、市民が当事者意識を持つことや周囲の既存組織からの支援があってこそ、事例のように問題解決に繋がっているのだと思う。
国や地方行政の力だけでの問題解決に限界がみえている日本においても、「市民起業家」が大きな役割を担うことが期待されるが、まちづくりコンサルタントとしてはもちろんのこと、一人の市民としても社会貢献や社会的責任について自然に考えさせてくれる一冊であった。
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