「交通まちづくり」という言葉は、まちづくり関係者にはすでによく知られていると思う。この本では、その考え方を紹介し、衰退する地方での交通の見直しをきっかけにしたまちづくりの展開を提案している。2013年2月、我が国初の交通政策の理念と方向性を示した「交通政策基本法」が施行され、その中で、交通とまちづくりは一体で進められるものという考え方が示された。富山市で展開されているような団子(まち)と串(公共交通ネットワーク)によるコンパクトシティ戦略を交通政策面からも進めることが求められるようなり、交通まちづくりの実践がこれから大きなテーマになっていく。
しかし、両輪の片方である公共交通ネットワークが現実には地方を中心に交通事業者の撤退が相次ぎ、がたがたの状態にある。本書では、そんな中でも住民が協力した交通まちづくりの芽生えとして、富山市、宇都宮市のLRT、新潟市のBRT、四日市市のあすなろうなどの国内事例を紹介するとともに、ドイツ、フランスなどの海外の成功事由などを紹介している。
それとともに、本書で私が注目した内容は、交通まちづくりの効果について、「ソーシャル・キャピタル」を挙げている点である。ソーシャル・キャピタルとは「心の外部性を伴った信頼・規範・ネットワーク」と定義されているが、簡単に言うと「絆」や社会参加、交流など人と人とのつながりである。交通の質が上がることでソーシャル・キャピタルが高まるという数値的なデータが明確にあるわけではないが、紹介されている富山市でのアンケート結果をみると、LRTができたことで、「人と会う回数が増えた」という効果が出ており、利便性の高い公共交通が沿線住民のライフスタイルを変え、ソーシャル・キャピタルの醸成に影響を与えたというのである。公共交通の評価というと、経済性や効率性など数字の議論になりがちだが、このような目に見えにくい効果もきちんと検討すべきだという著者の主張には大いに共感できる。
今後、交通まちづくりを進めていく上での重要な使命のひとつとして考えられるのは、本書で取り上げられているソーシャル・キャピタルの醸成、つまり人々にどのようなライフスタイルを提案し、人と人のどのようなつながりをコーディネートするか、なのではないだろうか。 |