本書は、人口減少・高齢化等を発端とする経済活動の減退が深刻化している「地方」において、自治体と住民・企業が知恵を出し合い、自然環境や伝統文化を尊重した個性的な「まちづくり」に挑戦している地域を実地に見聞することにより、過疎・財政破綻・公害・環境破壊等の「負の要素」を抱えた地域における「再生」に向けた取り組みを分析し紹介している。
本書で取り上げている地域は、北は北海道夕張市から南は沖縄県恩納村にわたる9箇所で、その内容は次の副題からも把握することができる。
・祭りと劇の似合う街−非日常というインフラ
・農業と観光の融合−有名観光地と棲み分けるしたたかな二番手戦略
・都会にビオトープの秘境を−土壌汚染浄化の苦労
・能登半島の挑戦−修学旅行で”村の共栄”を
・炭鉱の記憶−破綻からの再生をめざして
・コンビナート・クルージング−工場から公害の歴史を伝える
・サンゴ礁をめぐる葛藤−漁協職員の取り組み
・「水俣病の街」を活かすのか
・復興のために、いかに日常と向き合うか−復興横丁を歩いて
これらの取り組みからは、地域が再生するには、そこに居住して自活できる「職場」が必要であり、そのためには需要が創出され維持される仕組みづくりが有益であることが理解できる。具体例として、娯楽・観光を強化することにより、衰退している地域の外部から購買層や宿泊者を確保する方策、農業・教育(公害史の啓蒙(!)を含む)を観光に結び付ける手法などが紹介されている。その中には、農林漁業の一次産業、加工業の二次産業、サービス業の三次産業を組み合わせた「六次産業化」の取り組みも含まれている。
「環境」を切り口とした地域活性化の知見は、日頃から再開発等に不動産の価値論を介して関与する我々にとって、「東京」との比較において圧倒的に劣位である「地方」における有効需要の創造メカニズムを示唆するものである。まちづくりに直接関与される方々におかれても、刺激を得られる一冊であると期待し、本書を紹介するものである。
著者は、国連環境計画生物多様性条約事務局勤務後、国連大学高等研究所客員研究員、名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授を経て、現在は金沢大学大学院人間社会学地域創造学類において環境教育・コミュニケーション分野を担当する准教授であり、「生物多様性条約COP10」支援実行委員会アドバイザーを歴任している環境分野のプロである。
本書は、出版社との協議において企画され、2011年からほぼ1年をかけて現地取材を実施してまとめられたものである。今後も持ち前の好奇心を発揮し、社会とコミットした「現場」重視の研究活動が期待される。
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