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新しい分かり方/佐藤雅彦著
 中央公論新社/2017年9月25日発行

 「ピタゴラスイッチ」をご存じだろうか。2002年よりNHK教育テレビで放送されている、4〜6歳を対象にした番組である。「おとうさんスイッチ」や「アルゴリズムたいそう」といった数十秒〜数分の短いコーナーの詰め合わせで構成され、子どもに飽きが来ないような工夫がされている。その大きな特徴は、「知識を与える」のではなく、「考え方を伝える」ねらいがあるということである。例えばおとうさんスイッチは、ボタンと動作の連動による「対応」の考え方を、アルゴリズムたいそうでは、個々の動作の関連付けによる「手順」という考え方を視覚的・聴覚的に伝える。決して説明的ではなく、感覚的に子どもがおもしろいと感じられるような映像表現である。子どもの親などの大人からの注目度も高く、2013年からは特別番組として「大人のピタゴラスイッチ」が製作されている。これまでに、ソート、一対一対応、可視化、2値化、鳩の巣原理といった考え方が取り上げられた。
 番組を監修するのは元慶應義塾大学教授、現東京藝術大学教授の佐藤雅彦氏である。佐藤氏は教育番組のほか、「コイケヤスコーン」や「ドンタコス」などのCMをはじめとした数々のメディア作品を手掛け、印象的な作品を残している。
 佐藤氏の著書のひとつとして、「新しい分かり方」を紹介する。この本は、全ページの7割を図や写真、白紙のページ占める。読者は文字のないそのページが何を示し、どこにおもしろさがあるのか考える。例えば、右ページに金槌の写真、左ページに刺さった釘の写真を見たとき、私は「このページの意図は、この金槌で釘を打ったと思えということだな」と思った。続いて、右ページに石の写真、左ページに刺さった釘の写真を見て、「前ページと同じ構成にすることで、石で釘を打ったと思わせようとしているな」と思った。続いて、右ページにバナナの写真、左のページに刺さった釘の写真を見て、「冷凍バナナの実験を連想させようとしてるな」と思った。左右のページを無意識に関連付けて納得いくようなストーリーを生み出すことにとどまらず、「ページ作成の意図」にまで考えが及んだようだった。この本には、こうした読者に考えさせる表現作品が全部で60掲載され、各作品に対応して解説がある。筆者がこれらを「『読書』という行いより、『体験』という言葉を当て嵌める方が的確に思える」としていることから、これは決して現代アートの作品集や脳科学の解説書ではなく、本という形態をとった体験型作品であるといえる。
 「考える」「分かる」体験は、自分の視野が広がるだけでなく、何かを伝えるとき他人の能力として意識すべきことでもある。例えばイベントのポスターを作るとき、日時と会場を大きく表記し、イベントの目的と概要を記述し、出演者の一覧や前回の開催風景の写真を適切に配置すれば、見た人は誰もがそのイベントを知ることができる。見た人はそれらの情報から行きたいと判断できるが、同時に行かないという判断もできてしまう。会場に行かなければ分からない楽しさもあるのに、紙の情報だけで興味がないと判断をするのである。また、全てが詰まったポスターは、見ればすぐに情報が入ることから、印象には残りづらいだろう。そういう人に行かないと思わせないため、強く印象付けるために、「分かる」体験が利用できるのではないだろうか。例えば、ポスターからわかる情報が会場名だけだったとしても、ポスターに興味を持ってさえくれれば、会場名からいつ何があるのか検索ができる。もしくは今日やってるのかなと会場をのぞくかもしれないし、これは何のポスターですかと案内所で尋ねるかもしれない。このように、「分かる」仕掛けをポスターの外に用意することで、ホームページや会場に誘導したり、話題にしたりできる可能性がある。
 新しい分かり方を知るということは、新しい伝え方を知ることと同じである。頭の体操をしたいという方、伝え方のレパートリーを増やしたいという方に、ぜひ見て体験していただきたい一冊である。

(2018.1.19/日高史帆)